賃料の催告と右催告の趣旨不履行による賃貸借契約解除の意思表示との間に約一四年のへだたりがあつても、原審認定(原判決理由参照)のごとく、相手方においてもはや右催告に基づく解除権の行使はないものと信ずべき正当な事由が生じたとはいえない事情のもとでは、右意思表示のときまで右解除権は有効に存続していたと解することができる。
解除権が長期の不行使にかかわらず失効しないとされた事例
民法1条2項,民法541条
判旨
賃貸借契約において、賃料不払に基づく解除権が発生した後、長期間が行過したとしても、賃借人において解除権がもはや行使されないと信ずべき正当な事由が生じない限り、解除権は消滅せず有効に存続する。
問題の所在(論点)
賃料不払に基づく解除権が発生してから約14年という長期間が経過した後に解除権を行使することが、信義則(失効の原則)に照らして許されるか。具体的には、長期間の権利不行使によって「解除権がもはや行使されないと信ずべき正当な事由」が生じたといえるかが問題となる。
規範
権利者が権利を行使しない状態が継続したとしても、義務者において、その権利がもはや行使されることがないものと信ずべき正当な事由が生じたといえない限り、権利の行使(解除権の行使等)は信義則に反せず、なお有効に認められる。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、昭和26年2月20日に賃借人(上告人)に対し、未払賃料の催告を内容とする書留郵便を送達した。その後、賃貸人は長期間解除権を行使しなかったが、昭和40年2月12日に至り、右催告の不履行を理由とする本件賃貸借契約解除の意思表示を行った。上告人は、賃料不払の背景として先代賃貸人の死亡や賃料債権者の交代通知の欠如を主張したが、これらは原審で認められていなかった。
事件番号: 昭和41(オ)419 / 裁判年月日: 昭和41年11月1日 / 結論: 棄却
判示事情(判決理由参照)のあるときは賃料不払を理由とする賃貸借契約の判示解除は信義則に反し許されない。
あてはめ
本件において、被上告人(賃貸人)側の権利行使にはいささか「手ぬるい点」があったことは否定できない。しかし、上告人(賃借人)側において、発生した解除権がもはや行使されることはないだろうと信頼するに至る客観的かつ正当な事由があったとまでは認められない。したがって、単なる長期間の経過のみをもって解除権が失効したとはいえず、解除権は本件解除の意思表示の時までなお有効に存続していたと評価される。
結論
本件解除の意思表示は有効であり、賃貸借契約の解除は認められる。したがって、上告人の主張は採用できず、上告を棄却する。
実務上の射程
失効の原則(信義則の派生原理)の適用要件を「正当な事由」の有無に求めた事例である。答案作成上は、単なる時間の経過(本件では14年)だけでなく、権利を行使しないことへの信頼を基礎付ける「特段の事情(信頼の正当性)」が必要であることを論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和28(オ)1188 / 裁判年月日: 昭和30年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方がその権利はもはや行使されないと信頼すべき正当の事由を有し、その後の行使が信義誠実に反すると認められる特段の事由がある場合には、解除権の行使は許されない。 第1 事案の概要:被上告人(解除権者)は、上告人に対して発生した解除権を約4年1ヶ月の長期間にわたって行…
事件番号: 昭和32(オ)376 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由が生じた場合、その後の権利行使は信義則に反し許されない。 第1 事案の概要:上告人は解除権を有していたが、長期間にわたってこれを行使していなかった。その後、上告人が解除権を行使したところ、相手方(被…
事件番号: 昭和41(オ)991 / 裁判年月日: 昭和44年7月8日 / 結論: 破棄差戻
他人の土地の用益がその他人の承諾のない転貸借に基づくものである場合において、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときは、その土地の賃借権ないし転借権を時効により取得することができる。