判旨
解除権者が長期間権利を行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由が生じた場合、その後の権利行使は信義則に反し許されない。
問題の所在(論点)
権利の不行使が長期間継続した後に当該権利を行使することが、民法1条2項の信義誠実の原則に照らし、いわゆる「権利の失効」として許されないとされるための要件が問題となる。
規範
解除権を有する者が久しきにわたりこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由を有するに至ったため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、当該解除権の行使は許されない。
重要事実
上告人は解除権を有していたが、長期間にわたってこれを行使していなかった。その後、上告人が解除権を行使したところ、相手方(被上告人)から、長期間の不行使により権利は行使されないという信頼が生じており、当該解除は信義則に反する(失効の原則)との主張がなされた。
あてはめ
本件における具体的な事実関係(原審確定事実)に照らすと、単に解除権が長期間行使されていなかったというだけでなく、相手方において「もはや解除権は行使されない」と信頼すべき正当な事由があるとは認められない。また、その後の行使を信義則違反とするような特段の事由も認められないため、失効の原則の適用要件を充足しない。
結論
本件解除は許される。したがって、解除権の行使を認めなかった上告理由には理由がなく、上告を棄却する。
実務上の射程
消滅時効期間内であっても、権利の不行使と相手方の正当な信頼がある場合には信義則により権利行使が制限されるという「失効の原則」を一般的に認めた。答案上は、①長期間の不行使、②相手方の正当な信頼、③権利行使を認めることが信義則に反する特段の事情、という3要件を検討する際の規範として活用する。
事件番号: 昭和28(オ)1188 / 裁判年月日: 昭和30年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方がその権利はもはや行使されないと信頼すべき正当の事由を有し、その後の行使が信義誠実に反すると認められる特段の事由がある場合には、解除権の行使は許されない。 第1 事案の概要:被上告人(解除権者)は、上告人に対して発生した解除権を約4年1ヶ月の長期間にわたって行…
事件番号: 昭和41(オ)660 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
賃料の催告と右催告の趣旨不履行による賃貸借契約解除の意思表示との間に約一四年のへだたりがあつても、原審認定(原判決理由参照)のごとく、相手方においてもはや右催告に基づく解除権の行使はないものと信ずべき正当な事由が生じたとはいえない事情のもとでは、右意思表示のときまで右解除権は有効に存続していたと解することができる。
事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…
事件番号: 昭和31(オ)258 / 裁判年月日: 昭和32年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】催告期間内に「本旨に従う履行の提供」がなされない限り、解除権の発生を妨げることはできず、期間経過後の履行提供は解除の効力を左右しない。また、特段の事情がない限り、有効な催告に基づく解除権の行使は権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は債務の履行を怠り、被上告人から相当期間を定めた催告…
事件番号: 昭和44(オ)1162 / 裁判年月日: 昭和45年4月21日 / 結論: 棄却
貸金債権担保のため不動産の買戻約款付売買がなされその買戻期間が経過した場合において、買戻期間内に、買主が売主の債務の弁済の受領をあらかじめ拒否し、債務額をこえる金額の支払の申出を受けながら買戻を応諾しなかつたなど、原判決認定の事実関係(原判決理由参照)があるときは、売主の右申出が弁済の準備を伴わないため適法な提供の効果…