貸金債権担保のため不動産の買戻約款付売買がなされその買戻期間が経過した場合において、買戻期間内に、買主が売主の債務の弁済の受領をあらかじめ拒否し、債務額をこえる金額の支払の申出を受けながら買戻を応諾しなかつたなど、原判決認定の事実関係(原判決理由参照)があるときは、売主の右申出が弁済の準備を伴わないため適法な提供の効果を生じなかつたとしても、買主は、あらためて買戻に応ずる意思を示し相当の期間を定めて買戻権の行使を催告しないかぎり、期間の経過による買戻権の消滅を理由に、右不動産の所有権を確定的に取得したことを主張することは、信義則上許されない。
期間経過による買戻権消滅の主張が信義則上許されないとされた事例
民法580条,民法583条,民法1条2項
判旨
買戻権の行使期間が経過した場合であっても、債権者が弁済の受領をあらかじめ拒否し、提供された買戻代金の受領を拒むなどの事情があるときは、相当期間を定めた催告なしに期間経過による権利消滅を主張することは信義則上許されない。
問題の所在(論点)
買戻権の行使期間が経過した後に、債権者側がその期間経過による権利消滅を主張することが、信義則(民法1条2項)により制限される場合があるか。
規範
買戻権の行使期間(民法580条等)が経過した場合であっても、債権者が債務の弁済受領をあらかじめ拒否し、かつ債務額を超える金額の支払申出を受けながらこれに応諾しなかったなどの特段の事情がある場合には、債権者が改めて買戻に応ずる意思を示し、相当の期間を定めて買戻権の行使を催告しない限り、期間経過による買戻権の消滅を主張することは信義則(民法1条2項)に反し、許されない。
重要事実
債務者(被上告人)は、債権者(D)に対し、本件宅地について買戻しの特約付譲渡を行い、後に数回にわたり債務の元利金を上回る金額の支払を口頭で申し出て、買戻しの意思表示をした。しかし、Dはあらかじめ弁済の受領を拒否し、買戻しに応諾しなかった。その後、約定または法定の買戻期間が経過したため、Dの相続人である上告人らが、期間経過による買戻権の消滅を理由として、本件宅地の所有権を確定的に取得したと主張し、建物の収去および土地の明渡しを請求した。
事件番号: 昭和32(オ)376 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由が生じた場合、その後の権利行使は信義則に反し許されない。 第1 事案の概要:上告人は解除権を有していたが、長期間にわたってこれを行使していなかった。その後、上告人が解除権を行使したところ、相手方(被…
あてはめ
本件では、債務者が期間内に債務全額および利息を提供して買戻しの意思表示を明確にしていた。これに対し、債権者Dはあらかじめ受領を拒否しており、債務者の適法な申出を不当に拒絶していたといえる。このような状況下で、債権者側が何ら催告の手続きを経ることなく、単に期間が経過したことのみをもって買戻権の消滅を主張し、所有権の確定的な取得を主張することは、自らの拒絶行為を棚に上げて期間経過の利益のみを享受しようとするものであり、誠実な態度とはいえない。したがって、あらためて催告を行っていない本件においては、期間経過による失権の主張は認められない。
結論
買戻権は消滅しておらず、上告人らによる建物収去土地明渡請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
期間の定めがある形成権の行使において、相手方の不協力や受領拒否がある場合に信義則を適用して権利消滅を阻止する判断枠組みとして活用できる。特に、買戻しのほか、再売買の予約完結権の行使期間についても同様の論理が妥当し得る。答案上は、期間経過という形式的な法的効果を、信義則という一般的条項により是正する場面で引用する。
事件番号: 昭和42(オ)1066 / 裁判年月日: 昭和43年8月2日 / 結論: 棄却
取立払の定のある賃料について、増額請求を受けた賃借人が、賃貸人の一箇月分の賃料の取立にさいしてその全額の支払を拒絶し、その後引続き適正額の賃料の支払をも拒絶する態度を示している等判示事実関係のもとにおいては、賃貸人が客観的に適正とされる額によつて五年分の賃料を自己の住所へ持参して支払うよう催告し、催告期間内に賃借人の住…
事件番号: 昭和49(オ)163 / 裁判年月日: 昭和52年3月24日 / 結論: 棄却
後訴における被告の主張及び反訴請求が先に被告が提起した、右反訴と訴訟物を異にする前訴の実質上のむし返しであり、かつ、原判示の事情があるときは、後訴における被告の主張及び反訴請求は、信義則に反し許されない。
事件番号: 昭和41(オ)660 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
賃料の催告と右催告の趣旨不履行による賃貸借契約解除の意思表示との間に約一四年のへだたりがあつても、原審認定(原判決理由参照)のごとく、相手方においてもはや右催告に基づく解除権の行使はないものと信ずべき正当な事由が生じたとはいえない事情のもとでは、右意思表示のときまで右解除権は有効に存続していたと解することができる。
事件番号: 昭和46(オ)882 / 裁判年月日: 昭和47年1月20日 / 結論: 棄却
六箇月ごとの取立払の定めのある賃料につき、賃貸人が再三賃借人方に取立に赴きまた督促のため電話したのに対し、賃借人がその事実を知りながら支払の意思を示す態度がなかつたなどの判示の事実関係のもとにおいて、賃貸人が一年七箇月分の賃料を持参して支払うよう催告し、催告期間内に賃借人方に取立に赴かなかつたとしても、賃借人が弁済の準…