判旨
解除権者が長期間権利を行使せず、相手方がその権利はもはや行使されないと信頼すべき正当の事由を有し、その後の行使が信義誠実に反すると認められる特段の事由がある場合には、解除権の行使は許されない。
問題の所在(論点)
権利の不行使が長期間に及んだ場合、信義則(権利失効の原則)に基づき、その後の解除権の行使が制限されるための要件が問題となる。
規範
解除権を有する者が、長期間にわたりこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由を有するに至ったため、その後にこれを行使することが信義誠実の原則(民法1条2項)に反すると認められるような特段の事由がある場合には、当該解除権の行使は認められない。
重要事実
被上告人(解除権者)は、上告人に対して発生した解除権を約4年1ヶ月の長期間にわたって行使していなかった。上告人は、この長期間の不行使を理由に、もはや解除権は行使されないものと信頼した旨を主張し、その後の解除権行使は信義則に反して無効であると争った。
あてはめ
本件において解除権が4年1ヶ月余にわたって行使されなかった事実は認められる。しかし、原審が認定した一切の事実関係に照らしても、相手方において「解除権がもはや行使されない」と信頼すべき正当な事由があったとはいえない。また、本件の解除権行使が信義誠実に反すると認めるべき「特段の事由」も認められない。
結論
本件の解除権行使は信義則に反せず有効である。したがって、上告人の主張は認められず、解除は有効に成立する。
実務上の射程
権利失効の原則に関するリーディングケースである。答案上は、単なる期間の経過(不行使)だけでなく、①相手方の信頼の正当性、②権利行使を認めることが信義則に反する特段の事由、という2つのハードルを明示してあてはめる必要がある。
事件番号: 昭和32(オ)376 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由が生じた場合、その後の権利行使は信義則に反し許されない。 第1 事案の概要:上告人は解除権を有していたが、長期間にわたってこれを行使していなかった。その後、上告人が解除権を行使したところ、相手方(被…
事件番号: 昭和41(オ)660 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
賃料の催告と右催告の趣旨不履行による賃貸借契約解除の意思表示との間に約一四年のへだたりがあつても、原審認定(原判決理由参照)のごとく、相手方においてもはや右催告に基づく解除権の行使はないものと信ずべき正当な事由が生じたとはいえない事情のもとでは、右意思表示のときまで右解除権は有効に存続していたと解することができる。
事件番号: 昭和31(オ)258 / 裁判年月日: 昭和32年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】催告期間内に「本旨に従う履行の提供」がなされない限り、解除権の発生を妨げることはできず、期間経過後の履行提供は解除の効力を左右しない。また、特段の事情がない限り、有効な催告に基づく解除権の行使は権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は債務の履行を怠り、被上告人から相当期間を定めた催告…
事件番号: 昭和42(オ)1396 / 裁判年月日: 昭和44年11月27日 / 結論: 棄却
建物所有を目的とする土地賃借人が、一三年間にわたり賃料合計一四万七三九六円のうち一一万七三九六円を延滞していたとしても、賃貸人が解除の意思表示をした当時、その延滞賃料の支払を求める訴訟が調停に付され、その調停が進行中であり、判示のような経緯で遅滞の状態の解消への過程にあつて、そのための努力が払われていた以上、賃貸借契約…