地代家賃統制令の適用のない家屋の店舗部分を賃借人が無断取毀して住居部分のみとした場合、それ故に統制令の適用があると主張することは、誠実信義の原則上許されない。
店舗部分と居住部分のある家屋の店舗部分を賃借人が勝手に取毀わした場合と地代家賃統制令の適用。
民法1条2項,地代家賃統制令
判旨
解除権者が長期間権利を行使せず、相手方において権利が行使されないと信頼すべき正当の事由が生じた場合、その後の解除権行使は信義則上許されない。ただし、単に解除権発生から相当期間が経過したという事実のみでは、直ちにその行使は無効とはならない。
問題の所在(論点)
解除権の発生から長期間が経過した後の権利行使が、信義則(失効の原則)により制限されるための要件。
規範
解除権を有する者が長期間これを行使せず、かつ、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由を有するに至ったため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、当該解除権の行使は許されない。
重要事実
賃借人(上告人)が賃貸人(被上告人)の承諾を得ずに本件建物を新築したことにより、賃貸人に解除権が発生した。賃貸人は、この解除権が発生してから約7年6か月が経過した後に解除権を行使した。賃借人は、長期間の経過により解除権の行使は信義則に反し無効であると主張して争った。
事件番号: 昭和28(オ)1188 / 裁判年月日: 昭和30年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方がその権利はもはや行使されないと信頼すべき正当の事由を有し、その後の行使が信義誠実に反すると認められる特段の事由がある場合には、解除権の行使は許されない。 第1 事案の概要:被上告人(解除権者)は、上告人に対して発生した解除権を約4年1ヶ月の長期間にわたって行…
あてはめ
本件において、解除権の行使は解除権発生から7年半以上という長期間が経過した後になされている。しかし、単に権利行使までに期間が経過したという事実のみをもって、直ちに相手方に「権利がもはや行使されない」と信頼すべき正当の事由が生じたとはいえない。原審が認定した事実関係の下では、信頼を基礎付ける特段の事由は認められず、信義則に反するとまではいえない。
結論
本件解除権の行使は有効である。解除権発生から長期間が経過していても、信頼の正当理由等の特段の事由がない限り、その行使は妨げられない。
実務上の射程
いわゆる「失効の原則」を認めたリーディングケースである。答案上は、単なる時間の経過(期間の長さ)だけでなく、義務者側に生じた「信頼」と、その信頼を正当化する「客観的事実」の有無を慎重に検討する必要がある。形成権一般の消滅だけでなく、抗弁権の行使等、信義則による権利制限を論じる際の一般論として極めて汎用性が高い。
事件番号: 昭和32(オ)376 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由が生じた場合、その後の権利行使は信義則に反し許されない。 第1 事案の概要:上告人は解除権を有していたが、長期間にわたってこれを行使していなかった。その後、上告人が解除権を行使したところ、相手方(被…
事件番号: 昭和41(オ)660 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
賃料の催告と右催告の趣旨不履行による賃貸借契約解除の意思表示との間に約一四年のへだたりがあつても、原審認定(原判決理由参照)のごとく、相手方においてもはや右催告に基づく解除権の行使はないものと信ずべき正当な事由が生じたとはいえない事情のもとでは、右意思表示のときまで右解除権は有効に存続していたと解することができる。