一 抵当権設定登記後の期間の定めのない建物賃貸借の解約申入には借家法第一条ノ二の正当事由の存在を必要とする。 二 抵当権設定登記後の期間の定めのない建物の賃貸借が、契約締結後四年近くを経過しておる場合、競落人からの解約申入がなされ、その正当事由の有無に関し賃借人側の事情についてなんら主張立証がなされないときは、右解約申入には借家法第一条ノ二の正当事由があるといえる。 三 抵当権設定登記後の期間の定めない賃貸借は、抵当権者又は競落人に対抗しうる。
一 抵当権設定登記後の期間の定めのない建物の賃貸借と借家法第一条ノ二の適用 二 抵当権設定登記後の期間の定めのない建物の賃貸借の解約申入につき正当事由があるとされた事例 三 抵当権設定後の期間の定めのない賃貸借は抵当権者又は競落人に対抗しうるか。
借家法1条ノ2,民法395号
判旨
抵当権設定後に期間の定めのない賃貸借を締結した賃借人が、競落人による解約申入れの正当事由に対し自己側の事情を主張立証しない場合、賃貸借締結から約4年経過していれば正当事由があるものと認められる。
問題の所在(論点)
抵当権実行による競落人が、抵当権設定後の期間の定めのない賃借人に対し解約申入れをする際、賃借人が自己の居住等の必要性を主張立証しない場合において、約4年の期間経過等の事実のみで借家法上の「正当の事由」を認めることができるか。
規範
解約申入れの正当事由(旧借家法1条の2)の有無は、賃貸人・賃借人双方が主張立証する諸般の事情を総合考慮して判断される。賃貸人側において一定の期間経過等の事情が示された場合、賃借人側において自己の居住の必要性等の特段の事情を主張立証しない限り、当該事情をもって正当事由を充足すると判断することが可能である。
重要事実
本件建物の賃借人(上告人)は、抵当権設定登記後に、期間の定めのない賃貸借契約を締結した。その後、抵当権が実行され、競落により建物を取得した新所有者(被上告人)が、賃借人に対し訴状の送達をもって解約申入れを行った。賃貸借開始から口頭弁論終結時までには既に約4年が経過していた。これに対し賃借人側は、解約申入れの正当事由に関する自己側の具体的な事情について何ら主張立証を行わなかった。
あてはめ
被上告人(競落人)が解約申入れを行った時点で、本件賃貸借は締結から約4年が経過しており、一定の期間存続していたといえる。これに対し、上告人(賃借人)は正当事由の判断に影響を及ぼすべき賃借人側の事情(居住の継続を必要とする具体的理由等)について一切の主張立証を欠いている。このような状況下では、上記のような期間経過の事実等のみをもって、解約申入れを正当化する事由があると判断することは適当である。
結論
本件解約申入れには正当事由が認められ、法定期間の経過により賃貸借契約は終了する。したがって、賃借人は明渡義務を負う。
実務上の射程
抵当権設定後の賃貸借(旧法下)の事案であるが、正当事由の判断における当事者の主張立証責任の分配を実質的に示唆している。賃貸人側が一定の必要性や期間経過を示した際、賃借人が沈黙すれば正当事由が肯定されやすくなるという実務上の教訓を含む。ただし、本判決は補足意見にあるような「短期賃貸借の保護期間」との関係を主文の理由として明示したものではない点に注意を要する。
事件番号: 昭和35(オ)1149 / 裁判年月日: 昭和37年6月8日 / 結論: 棄却
正当事由に基づく家屋受渡請求事件において、被告(賃借人)先代が賃料につき提供も供託もしていないことをもつて、他人の家屋を使用する者として信義に反する旨の主張が原告(賃貸人)によつてなされ、被告が右事実を認めたが、右賃料についてはその後被告はこれを供託した旨陳述し、これに対し原告がその点を争わないと述べているときは、原告…