一 建物の賃貸人が賃貸借契約の解約申入に基づく該建物の明渡請求訴訟を継続維持しているときは、解約申入の意思表示が黙示的・継続的にされているものと解すべきである。 二 建物の賃貸借契約の解約申入に基づく該建物の明渡請求訴訟において、右解約申入当時に正当事由が存在しなくても、右訴訟の係属中に事情が変更して正当事由が具備されるに至つた場合には、その時から六箇月の期間の経過により、該賃貸借は終了するものと解すべきである。
一 建物の賃貸借契約の解約申入に基づく該建物の明渡請求訴訟の継続維持と解約申入の意思表示 二 賃貸借の解約申入に基づく建物の明渡請求訴訟の係属中に正当の事由が具備されるに至つた場合と当該賃貸借の終了
借家法1条ノ2,借家法3条,民法第1編第4章第1節
判旨
建物賃貸借の解約申入れ時に正当事由が不足していても、訴訟継続中に正当事由が具備されれば、解約申入れの意思表示が黙示・継続的になされているものとして、具備時から6か月の経過により賃貸借は終了する。
問題の所在(論点)
解約申入れ時に正当事由を欠く場合であっても、訴訟継続中に正当事由が具備されれば、新たな解約申入れの手続を経ることなく、当然に賃貸借契約の終了を認めることができるか。借地借家法(旧借家法)上の解約申入れの効力の発生時期が問題となる。
規範
建物賃貸借の解約申入れに基づく明渡請求において、申入れ当時に正当事由が欠けていても、賃貸人が訴訟を継続している間に事情が変更して正当事由が具備された場合には、解約申入れの意思表示が黙示的・継続的になされていると解する。したがって、正当事由が具備された時から6か月の期間(借家法等の法定期間)の経過により、賃貸借契約は終了する。この際、改めて別個の解約申入れや口頭弁論での明示的な意思表示をなす必要はない。
重要事実
賃貸人が建物明渡請求訴訟を提起したが、解約申入れの時点では正当事由が具備されていたか疑義があった。しかし、訴訟の係属中に事情が変更し、遅くとも昭和38年12月末頃には正当事由が存在するに至った。賃貸人はそのまま訴訟を維持し、明渡しの主張を継続していたが、正当事由具備後に改めて特段の解約申入れ手続は行っていなかった。
あてはめ
賃貸人が解約申入れに基づき明渡訴訟を継続している事実は、契約を終了させる意思が継続していることを示す。本件では昭和38年12月末に正当事由が具備されたといえるため、同時点から解約申入れの効果が確定的に発生し始めると解される。そこから法定の据置期間である6か月が経過した昭和39年6月末日をもって、期間満了による契約終了の効力が発生したものと評価される。手続的な反復を強いる実益はないため、再度の申入れは不要である。
結論
解約申入れ後に正当事由が具備された場合、その時から6か月の経過により賃貸借契約は終了する。本件賃貸借契約は昭和39年6月末日に終了したとする原判決の判断は正当である。
実務上の射程
実務上、解約申入れから判決時までの間の事情変更(立退料の提供の申出や賃貸人の必要性の増大等)を考慮して正当事由の有無を判断できるとする「正当事由の判断基準時」に関する重要な法理である。答案上は、訴訟中に立退料の増額提示等で正当事由が補完された場合に、本判例を援用して契約終了を導く論理として使用する。
事件番号: 昭和37(オ)544 / 裁判年月日: 昭和38年6月20日 / 結論: 棄却
正当事由による解約申入が効力を生じた後に事情が変更しても、解約が正当性を失つて無効となることはない。