正当事由による解約申入が効力を生じた後に事情が変更しても、解約が正当性を失つて無効となることはない。
解約申入の効果発生後における事情の変更。
借家法1条の2
判旨
借家法1条の2(現借地借家法28条)に基づく解約の申入れが一旦正当事由を具備して有効になされた以上、その後の事情変動によって遡及的に無効となることはない。
問題の所在(論点)
借家法1条の2(現行法28条)の正当事由に基づく解約申入れの効力が発生した後に、賃貸人が死亡するなどの事情変動が生じた場合、当該解約の効力に影響を及ぼすか。
規範
建物賃貸借の解約申入れに「正当の事由」があるか否かは、解約申入れの効力発生時(期間満了時等)を基準に判断すべきである。一旦、正当事由による解約が有効に成立した場合には、その後に事情が変動したとしても、既になされた解約の正当性が失われ無効に帰することはない。
重要事実
賃貸人(被上告人の先代)が、借家法1条の2に基づき建物賃貸借契約の解約申入れを行った。この解約申入れは昭和33年11月9日に正当事由を具備し、解約としての効力を生じた。しかし、その後、建物の明渡しを求める訴訟が継続中の昭和36年3月15日に、賃貸人本人が死亡した。賃借人(上告人)側は、賃貸人の死亡により明渡しを求める理由が消滅し、解約申入れの正当事由が失われたと主張して争った。
あてはめ
本件において、被上告人の先代が行った解約申入れは、昭和33年11月9日の時点で正当事由を具備しており、有効に解約の効果が発生している。その約2年4ヶ月後である昭和36年3月15日に賃貸人本人が死亡した事実は、既に確定した解約の効果を左右するものではない。また、原審の認定によれば、賃貸人の死亡によって直ちに明渡しを求める理由が消滅したとも認められない。したがって、効力発生後の事情変動を理由に解約を無効とする上告人の主張は採用できない。
結論
解約申入れが正当事由を具備して有効に効力を生じた後は、その後の事情変動によって無効とはならない。本件解約は有効であり、上告を棄却する。
実務上の射程
正当事由の判断基準時に関する原則を示す。実務上は、事実審の口頭弁論終結時までの事情も考慮されるのが一般的であるが、本判決は「一旦有効に効力が発生した解約」の法的安定性を重視する立場を明確にしている。答案上は、正当事由の有無を判断する際の「事情変動の限界」を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)634 / 裁判年月日: 昭和28年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解除において、正当な事由があると認められる場合には、当該解除は適法であり有効である。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対し、本件賃貸借契約の解除を求めて提訴した。原審は、諸般の事情を考慮した結果、賃貸人による解除には正当な事由があるものと認定し、賃借人の上告理由…