判旨
借地借家法下における賃貸借契約の解約申入れに「正当の事由」があるか否かは、解約申入れの効力発生当時における事情を基準に判断すべきであり、その後の事情を斟酌することはできない。
問題の所在(論点)
建物賃貸借の解約申入れにおける正当事由の有無を判断する基準時はいつか。また、申入れ後に生じた事情を考慮して正当事由の有無を判断することができるか。
規範
建物賃貸借の解約申入れ(旧借家法1条の2、現借地借家法28条)における正当事由の存否は、当該解約申入れの効力発生当時(期間満了時等)における事情に従って判断すべきである。解約申入れの効力発生後に生じた事情については、特段の事情がない限り、正当事由を基礎づける資料として斟酌することはできない。
重要事実
上告人(賃貸人)は、被上告人(賃借人)に対し、昭和23年5月6日に期間の定めのない建物賃貸借契約の解約申入れを行い、家屋の明渡しを求めた。原審は、当該解約申入れに正当事由がないと判断するに当たり、申入れ後の昭和24年4月以降に生じた事情(家屋払底の状況等)を判断材料の一つとしていた。上告人は、解約申入れ後の事情を考慮した原審の判断には違法があるとして上告した。
あてはめ
本件解約申入れは昭和23年5月になされており、正当事由の有無はその効力発生当時の事情により決すべきである。原審が昭和24年4月以降の事後的な事情を斟酌した点は、判断基準時の観点から失当といわざるを得ない。しかし、原審が認定した事実全体を検討すると、当該事後の事情は極めて軽微なものに過ぎず、これを除外したとしても、申入れ当時の諸事情(家屋の構造、利用状況、当事者の職業、居住人口の増加による家屋払底等)に照らせば、正当事由を否定した結論は妥当である。
結論
解約申入れに正当事由があるか否かは、申入れの効力発生当時の事情により判断すべきである。本件では、事後の事情を除外しても正当事由は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、正当事由の基準時を「解約申入れ(または期間満了)時」に固定する重要な規範。事後の事情(立退料の事後的な提供の申出など)をどこまで考慮できるかという論点において、本判決は原則的な時間的限界を示すものとして機能する。答案では、事情変更を主張する相手方への反論として基準時を明示する際に引用する。
事件番号: 昭和25(オ)6 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が自己の居住用家屋の明渡しを求められている場合であっても、物件取得の経緯や当事者の職業関係等の諸事情を比較考慮し、解約申入れに「正当の事由」が認められない場合がある。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)は、現在居住している家屋の所有者から明渡しを求められていた。そこで上告人は、自ら購入した本…