解約申入当時存在しなかつた事実を斟酌して、解約申入の正当性を否定した判決は、違法である。
解約申入における正当性の存否の時期についての判断が違法とされた事例
借家法1条ノ2,民訴法185条
判旨
借地法(現行借地借家法28条等)に基づく解約申入れの正当事由は、解約申入れ当時の事実に基づいて判断されるべきであり、解約申入れ後に生じた事実は、その判断において斟酌することはできない。
問題の所在(論点)
借地法(旧法。現行借地借家法28条参照)所定の「正当の事由」を判断する際、解約申入れ後に発生した事実を考慮に入れ、その正当性を否定することは許されるか。
規範
解約申入れ(又は更新拒絶)に必要とされる「正当の事由」の存否は、解約申入れの時点を基準として判断される。解約申入れ後に生じた後発的な事情を、申入れ時における正当事由を肯定又は否定する事由として斟酌することは認められない。
重要事実
上告人(賃貸人)が被上告人(賃借人)に対し、昭和23年10月20日に家屋の解約申入れを行った。原審は、解約申入れの正当性を否定する根拠として、被上告人が居住と営業を継続する困難性を挙げたが、その判断の基礎となった「上告人が仮処分の執行により階上に居住し始めたことで被上告人の居住スペースが極めて狭隘になった」という事実は、解約申入れの日から約1年から2年が経過した後の出来事である疑いがあった。
あてはめ
本件において、原審が正当事由を否定する一因とした「被上告人の居住・営業継続の困難性」という事実は、証拠に照らせば解約申入れ時点のものではなく、その後の仮処分執行等の状況変化に伴うものである可能性が高い。解約申入れ当時に存在しない後発的事実を斟酌して正当事由の存否を判断することは、基準時の誤りとして許されない。また、当該後発的事実を除外した場合、原審が判示した他の事由のみでは正当事由を否定するに足りないため、審理不尽・理由不備の違法があるといえる。
結論
解約申入れの正当事由は、解約申入れ当時の事実によって判断すべきである。申入れ後に生じた事実を斟酌して正当事由を否定した原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
借家・借地の更新拒絶や解約申入れの有効性を論じる際、どの時点の事実を拾うべきかという基準時(解約申入れ時)を示す判例として重要である。実務上、申入れ後の事情は「立退料の提供」や「申入れ時の事情を補強する要素」として限定的に考慮される余地はあるが、基本的には申入れ時の客観的事情で枠組みを決める必要がある。
事件番号: 昭和28(オ)1186 / 裁判年月日: 昭和29年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解約申入れにおける「正当の事由」の存否は、賃貸人及び賃借人双方の建物の使用を必要とする事情等を総合的に考慮して判断される。本件では、賃貸人側の事情が優先され、解約申入れに正当事由があると認められた。 第1 事案の概要:被上告人(賃貸人)が、上告人(賃借人)に対し、本件建物の賃貸借契約の…