判旨
借地借家法における解約申入れの正当事由の有無は、原則として解約申入当時の事情に基づき判断すべきであり、申入後の事情は、解約申入当時から当然予見されるなどの特段の事情がない限り参酌できない。
問題の所在(論点)
賃貸借契約の解約申入れにおける「正当事由」の存否を判断する際の基準時はいつか。また、解約期間経過後の事情を判断の基礎に含めることは許されるか。
規範
借家法(現借地借家法28条)にいう「正当の事由」の有無を判断するにあたっては、解約申入当時から当然に予見され、または存続する等の特段の事情がない限り、解約申入れの効力発生期間(同法3条1項、現同法26条1項)経過後の事後的事実を参酌することはできない。
重要事実
上告人(賃貸人)は、被上告人(賃借人)に対し、昭和23年11月4日に到達した書面をもって賃貸借契約の解約申入れを行った。原審は、当該解約申入当時の事情だけでなく、解約期間経過後である昭和25年2月以降の事情(当時の生活状態との相違点等)を詳細に認定した。その上で、解約申入当時に正当事由があるとしても、その後の事情変動によって正当性が否定されるとして、上告人の請求を棄却したため、上告人が上告した。
あてはめ
原審は、解約申入当時の事情と、その後の事情が大きく異なっていることを前提に、事後の事情変動を考慮して正当事由を否定した。しかし、解約期間経過後の事後的事実を参酌するためには、それが解約申入当時から当然に予見されていた等の特段の事情が必要である。本件において原審が認定した昭和25年2月以降の事情について、かかる特段の事情の有無を検討せずに正当事由を否定した点は、法令の解釈および適用を誤ったものといえる。
結論
原判決を破棄し、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。解約申入後の事情を当然に参酌して正当事由を判断することは認められない。
実務上の射程
正当事由の基準時が「解約申入時」であることを明確にした重要判例である。司法試験の答案作成においては、賃貸人の明渡請求の可否が問われる際、解約申入時(および期間満了時)の諸事情を検討の基礎とし、それ以降に生じた事情(立退料の増額提示等を除く原則的な事情)については、申入時に予見可能であったかという観点から論じる際の論拠となる。
事件番号: 昭和25(オ)249 / 裁判年月日: 昭和27年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地借家法(旧借家法)の下において、賃貸人による解約申入れに「正当の事由」があるか否かは、賃貸人・賃借人双方の建物の使用を必要とする事情に加え、立退料の提供等の諸般の事情を総合考慮して判断される。 第1 事案の概要:本件は、建物の賃貸人が賃借人に対し、建物の解約申入れを行った事案である。原審(第2…