判旨
賃貸借契約における解約申入れの正当事由は、解約申入れが効力を発生した当時の事情に基づいて判断すべきであり、その後の事情を判断資料とするのは失当である。
問題の所在(論点)
解約申入れの正当事由の存否を判断する基準時はいつか。また、効力発生後の事情を判断資料とすることの可否が問題となる。
規範
借地法や借家法(現・借地借家法28条参照)における解約申入れの「正当事由」の有無は、解約の申入れが効力を発生した当時における当事者双方の諸事情を基礎として判断すべきである。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、昭和20年12月下旬に賃借人(上告人)に対し、本件家屋の解約申入れを行った。当該申入れの効力が発生したのは、同21年5月下旬頃であった。原審は、この効力発生時より後の事情をも正当事由の判断資料として用いた上で、正当事由を認めた。被上告人は本件家屋の他に住居がなく、下宿業による収入が必要な状態にあり、一方で上告人も本件家屋での下宿業により生活し移転先がない状態であった。また、家屋の構造上、元の二戸建に回復することが容易な状況にあった。
あてはめ
解約申入れが効力を生じた後の事情を判断資料とした原判決は失当である。しかし、解約申入れ及び効力発生当時における事情、すなわち、賃貸人が他に住居がなく下宿業収入を必要としていたこと、賃借人も同様に下宿業で生活し移転先がなかったこと、及び家屋の構造・用途から二戸建への回復が容易であったこと等に照らせば、当時の事情のみによっても、本件家屋中二階北側部分についての解約申入れには正当事由があると認められる。
結論
解約申入れの効力発生時以降の事情を考慮した原審の判断過程には誤りがあるが、効力発生当時の事情のみに基づいても正当事由は認められるため、結論において原判決は維持される。
実務上の射程
正当事由の判断基準時が「解約申入れの効力発生時」であることを示した基本的判例である。答案上は、事後的な事情(立退料の提供の申出等を除く)を正当事由の判断に直接取り込まないよう注意する際の根拠となる。ただし、現在の実務・通説では、口頭弁論終結時までの事情を、解約申入れ時の正当事由を補完する要素(特に立退料)として考慮する構成が一般的である点に留意が必要である。
事件番号: 昭和38(オ)1263 / 裁判年月日: 昭和39年5月1日 / 結論: 棄却
借家法第一条ノ二の正当事由による解約が一旦有効になされた以上、たとえ解約の効果発生後に事情が変動しても、すでになされた右解約が正当性を喪失して無効に帰すべきいわれはない。