民法第三九五条の適用のある期間の定のない建物賃貸借において、その賃貸借が成立後競落人による解約申入に至るまで、−ほとんど七年に及ぶ長期間を経過したものであるときは、他に特段の事情がないかぎり、その解約申入は借家法第一条ノ二にいう「正当ノ事由」を具備するものというべきである。
民法第三九五条の適用のある期間の定のない建物賃貸借につき解約申入の正当事由が認められた事例
民法395条,民法602条,借家法1条ノ2
判旨
抵当権設定後に成立した短期賃貸借の競落人による解約申入れについて、旧民法395条の短期賃貸借制度の趣旨は借家法上の「正当の事由」を認定する上で極めて有力な資料となる。賃貸借成立から相当期間が経過し、賃借人に現実の使用実態がない等の事情があれば、特段の事情のない限り正当事由が具備される。
問題の所在(論点)
抵当権設定後の短期賃貸借において、競落人による解約申入れの「正当事由」を判断する際、抵当権との関係(短期賃貸借制度の趣旨)をどのように考慮すべきか。また、転借人の事情は正当事由の判断に影響するか。
規範
期間の定めのない建物賃貸借が旧民法395条の短期賃貸借に該当する場合、抵当権の実行による競落人が賃貸借の解約申入れをするに当たっては、同条の短期賃貸借制度の趣旨(抵当権の効力を優先させつつ、短期間の利用を保護する趣旨)を、借家法1条の2の「正当の事由」の存否を判断する上での極めて有力な資料とすべきである。
重要事実
本件家屋には被上告人の抵当権が設定・登記されていたが、その後に前所有者からEへ期間の定めのない賃貸借がなされ、引渡しが行われた。その後、上告会社がEから賃借権を譲り受け、上告人A1が転借して占有していた。被上告人は競落により所有権を取得した後、自己使用(社宅・連絡場所)を理由に解約申入れを行った。当時、賃貸借成立から約7年が経過しており、上告会社自身は債権回収目的で譲り受けたに過ぎず、家屋を現実には使用していなかった。
あてはめ
本件賃貸借は成立から解約申入れまで約7年が経過しており、短期賃貸借として保護すべき期間を十分に充足している。被上告人には社宅等としての使用希望がある一方、上告会社は債権回収目的の権利取得であって現実の使用実態がない。このような状況下では、短期賃貸借制度の趣旨に照らし、他に特段の事情がない限り「正当の事由」を具備するといえる。なお、本件のような短期賃貸借の対抗力の問題においては、転借人(A1)の個別事情は正当事由の存否に影響を及ぼさない。
結論
被上告人の解約申入れには正当事由が認められ、上告会社の賃借権および上告人A1の転借権は消滅した。したがって、被上告人の明渡請求は認められる。
実務上の射程
法改正(平成15年)により短期賃貸借保護制度は廃止され、抵当権設定後の賃借人には6ヶ月の明渡猶予(民法395条)が認められるのみとなったため、現在この判例が直接適用される場面は限定的である。しかし、正当事由の判断において、抵当権者と賃借人の利益衡量の視点や、制度の趣旨を正当事由の補完的要素として活用する手法は、他の競合する権利関係の解釈においても参考になり得る。
事件番号: 昭和26(オ)485 / 裁判年月日: 昭和27年12月11日 / 結論: 棄却
一 建物賃貸借契約書に用いられた「永久貸与」という文言を、他の証拠等に照らし、単に「長く貸しましよう。長く借りましよう。」という合意をあらわすもので、賃貸借の存続期間を定めたものでないと解釈しても、経験則に違背しない。 二 他人の賃借居住している家屋を譲り受けた者がなした賃貸借契約申入も、後記事実関係(原判決理由参照)…