一 建物賃貸借契約書に用いられた「永久貸与」という文言を、他の証拠等に照らし、単に「長く貸しましよう。長く借りましよう。」という合意をあらわすもので、賃貸借の存続期間を定めたものでないと解釈しても、経験則に違背しない。 二 他人の賃借居住している家屋を譲り受けた者がなした賃貸借契約申入も、後記事実関係(原判決理由参照)のもとでは、借家法第一条ノ二にいわゆる正当の事由がある。
一 建物賃貸借契約書に用いられた「永久貸与」という文言の解釈 二 借家法第一条ノ二にいわゆる正当の事由がある一事例
民法617条,民法604条,借家法第1条ノ2
判旨
賃貸借契約における「永久貸与」との合意は、特段の事情がない限り存続期間を定めたものとは解されず、また調停手続における明渡しの主張は解約申入れの意思表示として有効に作用する。
問題の所在(論点)
1. 賃貸借契約における「永久貸与」という文言が、存続期間の定めを意味するか。 2. 明渡しを求める調停の申立ておよび期日における陳述が、賃貸借の解約申入れとしての効力を有するか。
規範
賃貸借契約において「永久」という語が用いられた場合でも、日常的な生活関係においては必ずしも確定的な期間の長さを意味せず、契約全体の条項や作成経緯を考慮して当事者の合理的意思を解釈すべきである。また、期間の定めのない賃貸借において、調停期日で明渡しを求める趣旨を陳述し、相手方がこれを了知した場合には、解約申入れ(民法617条1項、借地借家法26条・28条等参照)としての効力を有する。
重要事実
賃貸人(被上告人)と賃借人(上告人)との間で家屋の賃貸借契約が締結され、契約書には「永久貸与」との記載があった。その後、賃貸人は賃借人に対し、横浜区裁判所への明渡し調停を申し立て、昭和21年10月の第1回調停期日に賃借人が出頭した。賃借人は「永久貸与」の合意があるから期間の定めがあると主張し、また調停申立てが解約申入れに該当するかを争った。
あてはめ
1. 「永久貸与」という表現は、契約作成の経緯や他の条項(第11条等)に照らせば、「長く貸し、長く借りよう」という漠然たる合意にすぎず、確定的な存続期間を定めたものとは認められない。したがって、期間の定めのない賃貸借、または当時の制限である20年を超える期間を定めたものではないと解するのが相当である。 2. 調停手続において、賃貸人が明渡しを求める趣旨を陳述し、賃借人がこれを出頭して了知した事実は、解約申入れの意思表示が到達したものと評価できる。この事実を解約申入れの効力発生と認めることに違法はない。
結論
「永久貸与」は期間の定めを意味せず、調停期日における陳述により解約申入れの効力が発生する。正当事由も認められるため、賃貸人の明渡し請求は認められる。
実務上の射程
契約書の文言解釈において、形式的な文言にとらわれず当事者の真意を周辺事情から探る実務の指針となる。また、訴訟や調停の開始をもって解約申入れの意思表示に代える実務慣行を補強する判例として、借地借家法上の解約時期の算定等に活用できる。
事件番号: 昭和26(オ)315 / 裁判年月日: 昭和27年10月7日 / 結論: 棄却
借家法第一条の二にいわゆる正当事由がある場合とは、必ずしも賃貸人において賃貸建物をみずから使用することを必要とする場合にはかぎらない。