判旨
催告期間内に「本旨に従う履行の提供」がなされない限り、解除権の発生を妨げることはできず、期間経過後の履行提供は解除の効力を左右しない。また、特段の事情がない限り、有効な催告に基づく解除権の行使は権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
民法541条に基づく解除において、催告期間内に本旨に従う履行の提供がなかった場合、期間経過後の履行提供によって解除権の行使が制限されるか。また、建築物の承諾等の事情がある場合に解除権の行使が権利の濫用となるか。
規範
債務者が催告期間内に本旨に従う履行の提供をしないときは、債権者は契約を解除することができる(民法541条)。履行の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならず、期間経過後の不十分な履行提供は解除権の発生および行使を阻止する効力を有しない。
重要事実
上告人は債務の履行を怠り、被上告人から相当期間を定めた催告を受けた。しかし、上告人は当該催告期間内に本旨に従う履行の提供を行わなかった。催告期間が経過した後、上告人は二千円、次いで六千円の提供を行ったが、被上告人は契約の解除を主張した。上告人側は、期間後の履行提供があることや、建築物の建造に関する承諾があったこと等を理由に、解除の無効や権利の濫用を主張して争った。
あてはめ
本件では、上告人が催告期間内に本旨に従う履行の提供をしたと認めるべき証拠はない。期間経過後になされた金二千円および六千円の提供は、既に発生した解除権を消滅させるものではなく、解除の効力を判断する上で副次的な事実に過ぎない。また、建築物の建造につき承認があったとの事実も認められず、有効な催告に基づく解除権の行使を権利の濫用と評価すべき特段の事情は存在しない。
結論
催告期間内に本旨に従う履行の提供がない以上、被上告人の解除は有効であり、上告人の請求(上告)は棄却される。
事件番号: 昭和31(オ)748 / 裁判年月日: 昭和33年2月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約が解除された場合における、既払代金の返還義務と目的物の返還義務は同時履行の関係に立つが、本判決は個別事情によりこれらを否定した。契約解除に伴う原状回復義務相互の同時履行関係の有無が争点となる。 第1 事案の概要:上告人(買主)が売買残代金の支払を怠ったため、被上告人(売主)が売買契約を解除…
実務上の射程
履行遅滞による解除の事案において、債務者側が「期間経過後に一部履行した」あるいは「権利の濫用である」と抗弁する際の反論として機能する。裁判所が「期間内の本旨に従う提供」を厳格に要求している点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…
事件番号: 昭和28(オ)1188 / 裁判年月日: 昭和30年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方がその権利はもはや行使されないと信頼すべき正当の事由を有し、その後の行使が信義誠実に反すると認められる特段の事由がある場合には、解除権の行使は許されない。 第1 事案の概要:被上告人(解除権者)は、上告人に対して発生した解除権を約4年1ヶ月の長期間にわたって行…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和32(オ)376 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由が生じた場合、その後の権利行使は信義則に反し許されない。 第1 事案の概要:上告人は解除権を有していたが、長期間にわたってこれを行使していなかった。その後、上告人が解除権を行使したところ、相手方(被…