判旨
行政処分が複数の理由に基づいて行われた場合、その一部の理由が不当であっても、他の正当な理由のみによって処分の基礎が十分に維持されるのであれば、当該処分を違法とすべきではない。
問題の所在(論点)
行政処分を行う際に考慮された複数の理由のうち、一部の事実認識や評価が不当であると判断された場合、当該処分全体が直ちに違法となるか。
規範
行政庁が複数の事実を考慮して許可処分等の裁量処分を行った場合、一部の事実認定に誤りがあるか、あるいはその事実の評価が不当であったとしても、客観的に存在する他の事実関係に基づき、当該処分の妥当性が十分に基礎付けられるときは、その処分は適法として維持される。
重要事実
地主Dが、小作人である上告人との農地賃貸借契約を解約するため、知事に対し農地調整法に基づく解約許可申請を行った。知事は、①上告人と地主Dの経済力・生活状態の格差、②地主Dの耕作能力、③上告人の小作料不払という信義則違反の事実、を考慮して解約を許可した。しかし、原審(控訴審)は、③の事実は信義則違反とまではいえないと判断した。
あてはめ
本件では、知事が考慮した理由のうち、③の小作料不払については信義則違反とはいえないとされる。しかし、他の事実関係を見ると、上告人の耕作面積(田1町8反7畝等)に対し、地主Dは僅か(畑1反2畝)であり、生活状態も上告人の方が裕福である。また、地主Dの耕作能力にも欠けるところはない。これらの①②の諸事情を総合すれば、仮に③の事情が認められなくとも、本件解約を許可した判断は正当として帰結する。
結論
一部の考慮要素に不適切な点があっても、残りの正当な理由のみで処分の妥当性が十分に説明できる場合には、当該処分は違法とはならない。
実務上の射程
事件番号: 昭和30(オ)690 / 裁判年月日: 昭和32年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約において、賃借人に特に宥恕すべき事由がないまま数年間にわたる賃料延滞が生じている場合、その後に一部の支払がなされたとしても、契約解除を基礎付ける信頼関係の破壊という事実は左右されない。 第1 事案の概要:被上告人(賃貸人)が上告人(賃借人)に対し、土地賃貸借契約の解約許可申請(農地法等に…
行政処分の取消訴訟における「理由の差し替え」や「裁量権の逸脱・濫用」の判断において、処分の基礎となった事実の一部が欠けても処分を維持できるとする判断手法(処分の性質上、理由の不可分性が認められない場合)を示す。実務上は、処分の結論が客観的に正当化し得るかを重視する構成として利用できる。
事件番号: 昭和26(オ)494 / 裁判年月日: 昭和28年6月19日 / 結論: 棄却
昭和二二年法律第二四〇号農地調整法改正法附則第三条第七項による賃借権設定の裁定に、賃借権の内容条件を定めてないときは、特別の事情のないかぎり、前の賃借権と同一の内容条件において裁定のあつたものと認むべきである。
事件番号: 昭和26(オ)452 / 裁判年月日: 昭和28年9月4日 / 結論: 棄却
知事が農地調整法第九条第三項によつて農地賃貸借解約を許可した後は、許可申請書に事実にあわない記載があり、錯誤によつて許可したものとしても申請者側に詐欺等の不正行為があつたことが顕著でない限り、それだけの理由で、さきの許可処分を取り消すことはできない。
事件番号: 昭和28(オ)1049 / 裁判年月日: 昭和30年4月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分は、外部に表示されてはじめて効力を生ずるため、内部的な意思決定に留まる段階では効力を持たず、後にこれを取り消して異なる意思決定をしても違法ではない。 第1 事案の概要:上告人は、昭和22年3月31日に承認の議決(行政処分)がなされたと主張したが、当該議決は外部に対して表示されていなかった。…