判旨
賃貸借契約において、賃借人に特に宥恕すべき事由がないまま数年間にわたる賃料延滞が生じている場合、その後に一部の支払がなされたとしても、契約解除を基礎付ける信頼関係の破壊という事実は左右されない。
問題の所在(論点)
数年にわたる継続的な賃料延滞が存在する場合において、解除の意思表示や手続の後に賃料が支払われたとしても、なお「信頼関係の破壊」を理由とする解除(解約)が認められるか。
規範
賃貸借契約の解除が認められるためには、単なる債務不履行のみならず、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたと認められることが必要である。その判断にあたっては、賃料延滞の期間、延滞に至る事情(宥恕すべき事由の有無)、及びその後の支払状況等の諸事案を総合的に考慮すべきである。
重要事実
被上告人(賃貸人)が上告人(賃借人)に対し、土地賃貸借契約の解約許可申請(農地法等に関連するものと推測される)を行った際、賃借人Dは昭和19年度の不足分及び昭和20年度から23年度分までの賃料を延滞していた。この延滞について、特に宥恕すべき事情は認められなかった。賃借人側は、解約申請後に行われた賃料支払の事実を根拠に、延滞の事実が解消された旨を主張して争った。
あてはめ
本件では、賃借人が昭和19年から23年までの長期にわたり賃料を延滞しており、その間に延滞を正当化するような宥恕すべき事由も存在しない。このような長期間の不履行は、賃貸借の基礎となる信頼関係を著しく損なうものである。したがって、解約手続が開始された後に所論のような賃料支払の事実があったとしても、それによって既に生じた信頼関係の破壊という客観的事態や、過去の延滞の事実そのものが覆されるものではないと解される。
結論
数年間にわたる賃料延滞があり、宥恕すべき事由がない以上、その後の支払をもって延滞の事実を覆すことはできず、解約許可は妥当である。
事件番号: 昭和36(オ)1155 / 裁判年月日: 昭和37年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約における賃借人の債務不履行を理由とする解除が認められるためには、単なる履行遅滞のみでは足りず、その不履行が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊し、契約の継続を困難にする程度に至っていることを要する。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)は、訴外D(賃借人)が小作料を支払わなかったことを理由…
実務上の射程
信頼関係破壊の法理における「不履行の程度」を判断する際、解除権行使後の「追完」がどの程度影響するかについての判断基準となる。長期間の延滞がある場合は、事後の支払があっても信頼関係の回復は困難であると判断される傾向にある。
事件番号: 昭和38(オ)1394 / 裁判年月日: 昭和40年7月16日 / 結論: 棄却
農地所有者の許容によつてはじめられた耕作であつても、右所有者から正当に土地返還を求められたのにかかわらず応じない状態にあるときは、農地法第六条第五項にいう「平穏」を欠く耕作にあたる(昭和三七年一月三〇日第三小法廷判決、民集一六巻一号一三〇頁参照)。
事件番号: 昭和33(オ)115 / 裁判年月日: 昭和34年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法に基づく賃貸借の解約等の許可申請に対し、賃貸人の耕作能力や生活状況、賃借人の事情、農業生産への影響等を総合的に考慮し、解約拒否を不相当とした知事の判断は適法である。 第1 事案の概要:被上告人(賃貸人)は専業農家であり、生計維持のために本件農地の返還を求めていた。被上告人の養子は、本件農地が…
事件番号: 昭和30(オ)268 / 裁判年月日: 昭和32年4月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が複数の理由に基づいて行われた場合、その一部の理由が不当であっても、他の正当な理由のみによって処分の基礎が十分に維持されるのであれば、当該処分を違法とすべきではない。 第1 事案の概要:地主Dが、小作人である上告人との農地賃貸借契約を解約するため、知事に対し農地調整法に基づく解約許可申請を…
事件番号: 昭和26(オ)384 / 裁判年月日: 昭和27年11月7日 / 結論: 棄却
昭和二二年法律第二四〇号による農地調整法改正前においては、農地賃貸借の合意解約について、同法第九条第三項による知事の許可を要しない。