農地所有者の許容によつてはじめられた耕作であつても、右所有者から正当に土地返還を求められたのにかかわらず応じない状態にあるときは、農地法第六条第五項にいう「平穏」を欠く耕作にあたる(昭和三七年一月三〇日第三小法廷判決、民集一六巻一号一三〇頁参照)。
農地法第六条第五項にいう「平穏」を欠く耕作の事例
農地法6条
判旨
土地所有者の許容により開始された耕作であっても、所有者から正当に土地返還を求められたのに応じない状態にあるときは、農地法6条5項にいう「平穏」を欠く耕作に該当する。したがって、返還要求を一貫して拒み継続された耕作は準小作地としての買収対象にはならない。
問題の所在(論点)
農地法6条5項の「準小作地」の要件である「平穏」な耕作の意義が問題となる。特に、当初は適法な権原に基づいて開始された耕作が、返還義務発生後の返還拒絶によって「平穏」を欠くものと評価されるか。
規範
農地法6条5項にいう「平穏」な耕作とは、権利の存否に関する紛争がなく、平穏に維持されている状態を指す。当初は所有者の許容(使用貸借等)に基づいて開始された耕作であっても、当該契約が終了し、所有者から正当に土地返還を求められたにもかかわらず、耕作者がこれに応じないまま継続する耕作は、客観的に紛争状態にあるといえ、「平穏」を欠く耕作と解すべきである。
重要事実
所有者(被上告人)と耕作者Dとの間の農地使用貸借が解約された。しかし、Dは返還の請求に対し諾否を曖昧にしたまま耕作を継続した。所有者は昭和29年末、帰省時にDの耕作を知り、第三者を通じて速やかな返還を申し入れた。さらに昭和32年初頭、農業委員会委員が和解を試みた際にも、所有者はDの代理人に対し強く返還を求めた。Dはこれら一貫した返還要求を無視して耕作を続け、その状態で買収手続がなされた。
あてはめ
本件において、被上告人とDとの間の使用貸借は解約されており、被上告人による返還請求には正当な権原がある。被上告人は昭和29年および32年と、一貫して土地返還の要求を持続していた。これに対し、Dは当該要求を無視して耕作を継続しており、買収手続の前後を通じて土地返還をめぐる紛争状態が存在していたといえる。そうであれば、Dによる耕作は所有者の正当な返還請求を拒むものであり、農地法上の「平穏」な耕作とは認められない。
結論
Dによる耕作は「平穏」を欠くため、本件農地は農地法6条5項の「準小作地」に該当しない。したがって、これに基づく買収手続は認められない。
実務上の射程
行政法における「平穏」概念の解釈を示す。当初の占有開始が適法であっても、その後の事情(正当な返還請求の拒絶)によって「平穏」が否定され得るという判断枠組みは、農地法のみならず、占有の態様が問題となる他の行政法規や民法の取得時効における「平穏」の解釈においても参考となる。
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