判旨
農地法に基づく賃貸借の解約等の許可申請に対し、賃貸人の耕作能力や生活状況、賃借人の事情、農業生産への影響等を総合的に考慮し、解約拒否を不相当とした知事の判断は適法である。
問題の所在(論点)
農地法に基づき賃貸借の解約を許可すべき事由があるか否かの判断において、どのような事情を考慮すべきか。特に、賃貸人の生計維持の必要性と農業生産への影響の評価が問題となる。
規範
農地法(旧法)の解約制限の趣旨に照らし、賃貸借の解約を認めるか否かの判断においては、賃貸人・賃借人双方の諸事情(生計維持の必要性、耕作能力、土地利用の状況等)を総合的に比較衡量し、解約を認めることが農業生産の維持・増進及び賃借人の生活の安定を不当に害さないかを判断枠組みとする。
重要事実
被上告人(賃貸人)は専業農家であり、生計維持のために本件農地の返還を求めていた。被上告人の養子は、本件農地が返還されないために他人の所有地を事実上耕作して生計を維持している状態であった。一方で、上告人(知事)は当該賃貸借の解約を拒否する処分を下したため、その処分の妥当性が争われた。
あてはめ
被上告人一家が専業農家であること、及び返還を受けられないためにやむを得ず他人の土地を耕作している実態から、賃貸人側には本件農地を自ら耕作し生計を維持する高度な必要性が認められる。また、被上告人に本件農地を返還して耕作させたとしても、農業生産の成果に悪影響を及ぼすとは認められない。これらの事情を総合すれば、賃貸借の解約を拒否した知事の判断は相当性を欠くといえる。
結論
県知事が賃貸借の解約を拒否したことは相当ではなく、解約を認めるべきとした原審の判断は正当であるとして、上告を棄却した。
実務上の射程
事件番号: 昭和26(オ)257 / 裁判年月日: 昭和34年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法(旧農地調整法)上の「一時賃貸借」に該当する場合、賃貸借の解約等について知事の許可を要せず、便宜的になされた許可における正当事由の有無も問題とならない。 第1 事案の概要:農地の賃借人と賃貸人の間において、当該賃貸借契約が一時的なものであると認定された事案。知事は便宜的に当該賃貸借に関する許…
農地法上の解約許可申請に関する行政処分の裁量審査において、賃貸人の「耕作を必要とする事情」と「農業生産への影響」の具体的衡量を示す。答案上は、許可要件(正当事由)の解釈において、当事者双方の具体的個別事情を比較衡量する際の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和26(オ)384 / 裁判年月日: 昭和27年11月7日 / 結論: 棄却
昭和二二年法律第二四〇号による農地調整法改正前においては、農地賃貸借の合意解約について、同法第九条第三項による知事の許可を要しない。
事件番号: 昭和36(オ)1155 / 裁判年月日: 昭和37年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約における賃借人の債務不履行を理由とする解除が認められるためには、単なる履行遅滞のみでは足りず、その不履行が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊し、契約の継続を困難にする程度に至っていることを要する。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)は、訴外D(賃借人)が小作料を支払わなかったことを理由…
事件番号: 昭和30(オ)690 / 裁判年月日: 昭和32年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約において、賃借人に特に宥恕すべき事由がないまま数年間にわたる賃料延滞が生じている場合、その後に一部の支払がなされたとしても、契約解除を基礎付ける信頼関係の破壊という事実は左右されない。 第1 事案の概要:被上告人(賃貸人)が上告人(賃借人)に対し、土地賃貸借契約の解約許可申請(農地法等に…