停止条件付代物弁済契約は、弁済期日に債務不履行のあつた場合に当初の債務全額の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきであり、債務の一部弁済があつた場合にも、その趣旨は異なるものでなく、その残債務の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきではない。
債務の一部弁済があつた場合における停止条件付代物弁済契約の解釈
民法482条
判旨
停止条件付代物弁済契約において、弁済期日に債務の大部分が弁済され残債務が僅少であったとしても、特段の事情がない限り、直ちに代物弁済の効力を信義則(民法1条2項)により否定することはできない。
問題の所在(論点)
債務の大部分が弁済され残債務が僅少な場合に、多額の価値を有する目的物の代物弁済による所有権移転を認めることが、信義則(民法1条2項)に反し許されないか。
規範
停止条件付代物弁済契約は、債務の不履行があった場合に、当初の債務全額(または一部弁済後の残債務)の弁済に代えて目的物の所有権を移転させる趣旨と解される。したがって、弁済期日に債務の大部分が弁済され残債務が僅少となっていた場合であっても、信義則(民法1条2項)を根拠としてその効力を否定するためには、著しく公平の理念に背くといえるような「特段の事情」の存在を要する。
重要事実
債務者(被上告人)は、債権者(上告人A2)から10万円を借り入れる際、弁済期日の不履行を停止条件とする本件土地(時価約83万円)の代物弁済契約を締結した。弁済期日において、元本は全額弁済されていたが、2ヶ月分の利息合計6,000円が未払であった。債権者は、この利息6,000円の残債務につき停止条件が成就したとして、本件土地の所有権移転登記を経由した。原審は、残債務に比して目的物の価額が過大であることを理由に、信義則に反し無効と判断した。
事件番号: 昭和42(オ)959 / 裁判年月日: 昭和42年12月22日 / 結論: 棄却
一〇万円の債務の担保として時価八三万六〇〇〇円の土地(但し五五万三二〇円の国税滞納処分による差押がある)について条件付代物弁済契約を締結していた場合、利息債権六〇〇〇円の未払を理由に、右条件を成就を主張することは、その未払の生じた理由が使者の横領による等原判決認定の諸事件(原判決理由参照)のもとにおいては信義則に照らし…
あてはめ
代物弁済契約の性質上、不履行があれば残債務の額にかかわらず目的物の所有権が移転するのが原則である。本件では、残債務は利息6,000円であり、土地の時価(約83万円)との間には大きな開きがある。しかし、単に債務額と目的物価額の均衡が失われているという事実のみから直ちに信義則違反と断じることは、私法上の契約の効力を不当に阻害するおそれがある。信義則を適用して契約の効力を否定するには、当事者間の公平を著しく害するような個別具体的な「特段の事情」を審理し、確定する必要がある。
結論
残債務が僅少であっても、特段の事情のない限り代物弁済による所有権取得の効力は否定されない。原審が特段の事情を十分に判示せず信義則違反とした判断には、審理不尽または法解釈の誤りがある。
実務上の射程
暴利行為や信義則の適用を検討する際、単なる「対価の不均衡」だけではなく、不均衡に至った経緯や帰責性などの「特段の事情」まで要求する判例として重要である。司法試験では、民法1条2項や90条の適用において、形式的な要件充足から一歩踏み込んで実質的妥当性を論じる際の制約原理として引用できる。
事件番号: 昭和34(オ)989 / 裁判年月日: 昭和36年6月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務の残額に比して代物弁済の目的物の価格が著しく高価であり、予約完結権の行使が債務者に対しあまりに過酷な場合には、信義則(民法1条2項)または公序良俗(同90条)に反し無効となる。目的物の価格算定においては、単なる建築費のみならず、敷地賃借権の有無等の付加価値も考慮すべきである。 第1 事案の概要…
事件番号: 昭和33(オ)992 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済の予約に基づく所有権移転が、不動産価格と債務額に大きな差がある場合でも、相手方の窮迫等を利用して過当な利益を図る目的がない限り、直ちに公序良俗に反して無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人から37万円を借り受け、利息制限法に基づく引き直し後の元本債務は38万1100円であっ…
事件番号: 昭和36(オ)258 / 裁判年月日: 昭和39年12月22日 / 結論: 破棄差戻
貸金債権を担保する不動産の売買予約完結権につき右債務を弁済したときは予約完結権のための所有権移転請求権保全の仮登記を抹消する旨の調停が成立した場合において、調停条項に右予約完結権の行使の効果について明記されておらずその他判示事情のもとでは、右調停により、前記予約完結権の行使の効果が当初の代物弁済的性質から、いわゆる清算…
事件番号: 昭和42(オ)1472 / 裁判年月日: 昭和44年2月13日 / 結論: 破棄差戻
一個の債権担保のため、甲乙丙不動産につき停止条件付代物弁済契約がされるとともに、所有権移転請求権保全の仮登記がされている場合において、債権者が甲不動産を代物弁済により所有権を取得し、それに基づいて所有権移転登記を経由したにすぎないときは、その後乙不動産につき所有権移転請求権保全の請求権を譲り受けた者がした代物弁済による…