判旨
代物弁済の予約に基づく所有権移転が、不動産価格と債務額に大きな差がある場合でも、相手方の窮迫等を利用して過当な利益を図る目的がない限り、直ちに公序良俗に反して無効とはならない。
問題の所在(論点)
目的物の価額が債務額を大幅に超過する代物弁済の特約は、民法90条の公序良俗違反として無効となるか。
規範
代物弁済の特約が暴利行為として公序良俗(民法90条)に反し無効となるかは、単に目的物の価格と債務額に格差があることのみで判断すべきではない。債権者が、債務者の窮迫、軽卒または無経験を利用し、過当な利益を図る目的で当該特約を締結したといえるか否かによって決すべきである。
重要事実
上告人は被上告人から37万円を借り受け、利息制限法に基づく引き直し後の元本債務は38万1100円であった。当該借入れに際し、不履行時には本件不動産(当時、債務額の約3倍の価値)の所有権を移転させる代物弁済の特約がなされた。上告人は延期された弁済期にも履行できず、債権者である被上告人は数回の督促を経て特約に基づき所有権移転登記を完了した。上告人は、債務額と不動産価格の著しい不均衡等を理由に、当該移転は公序良俗違反であると主張した。
あてはめ
本件において、本件不動産の価格は債務額の約3倍に相当しており、客観的な価値の差は存在する。しかし、被上告人が上告人の窮迫、軽卒、または無経験といった困窮状態につけ込み、不当な利益を得ようとする悪意(目的)を持って本件特約を締結した事実は認められない。したがって、価格の開きがあることのみをもって、著しい暴利行為として社会的妥当性を欠くとはいえない。
結論
本件代物弁済の特約に基づく所有権移転は、公序良俗に反せず有効である。上告棄却。
実務上の射程
事件番号: 昭和38(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。
本判決は、譲渡担保や代物弁済予約等の債権担保を目的とした形式において、暴利行為による無効を主張する際のハードルを示している。答案上は、単なる金額の多寡ではなく、主観的要件(窮迫への乗じ等)の有無を検討する際に活用すべきである。
事件番号: 昭和30(オ)904 / 裁判年月日: 昭和33年6月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務額を大幅に上回る時価の物件を対象とする代物弁済予約であっても、締結の経緯や相手方の窮迫・無経験に乗じた事実の有無など、諸般の事情を総合考慮して暴利行為にあたらないと判断される場合には、公序良俗に反せず有効である。 第1 事案の概要:債権者である被上告人は、債務者(訴外D)に対し15万円の債権を…
事件番号: 昭和36(オ)1162 / 裁判年月日: 昭和38年1月18日 / 結論: 破棄差戻
譲渡担保契約において、期限に債務の弁済がないときは担保物件を債務の代物弁済に供する旨の約定を含む場合、被担保債権額に比し担保物件の価額が著しく高額であつて、債務者の経済的困窮に乗じて右の約定をなしたものとして右約定部分を公序良俗に反し無効と解すべきときでも、必ずしも譲渡担保契約全部が無効となるとは限らない。
事件番号: 昭和30(オ)228 / 裁判年月日: 昭和32年2月15日 / 結論: 棄却
元金三五万円、弁済期三〇日後、利息三〇日につき一割、利息を支払えば借主の希望により弁済期を延期するとの約旨の消費貸借契約に付随し、借主が弁済期に元金を支払わないときは、時価三、〇六七、〇〇〇円相当の不動産の所有権を代物弁済として貸主に移転する旨を約したときは、右代物弁済の予約は、特別な事情のないかぎり、貸主が借主の窮迫…
事件番号: 昭和30(オ)972 / 裁判年月日: 昭和32年7月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務額と代物弁済の目的物の価格に開きがある場合でも、債権者が債務者の無知や窮迫に乗じて暴利を貪ったという事情がなく、債務者に弁済の目途があったといえる状況下では、当該代物弁済契約は公序良俗に反しない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人は、債務の代物弁済として土地建物を譲渡する契約を締結した。当時…