債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。
代物弁済契約が民法第九〇条により無効であるとはいえないとされた事例。
民法90条,民法482条
判旨
債務額と代物弁済の目的物の時価に著しい差がある場合でも、相手方の窮迫・軽卒に乗じて不当な利益を獲得する目的が認められない限り、民法90条により無効とはならない。
問題の所在(論点)
債務額と代物弁済の目的物の時価との間に約4.5倍という著しい開きがある場合、当該代物弁済契約は民法90条の公序良俗に反して無効となるか。
規範
暴利行為が民法90条の公序良俗違反として無効となるためには、単に給付と反対給付の間に著しい不均衡が存在するだけでなく、相手方の窮迫、軽卒、無経験等に乗じて、不当な利益を獲得する目的(暴利意思)をもってなされたことを要する。
重要事実
上告人は被上告人に対し、137万円の債務を負っていた。この債務の弁済として、時価合計609万5300円(宅地506万1700円、建物103万3600円)の不動産を代物弁済に供する契約を締結した。この目的物の価格は債務額の約4.5倍に相当するものであった。上告人は本件契約が公序良俗に反し無効であると主張した。
事件番号: 昭和33(オ)992 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済の予約に基づく所有権移転が、不動産価格と債務額に大きな差がある場合でも、相手方の窮迫等を利用して過当な利益を図る目的がない限り、直ちに公序良俗に反して無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人から37万円を借り受け、利息制限法に基づく引き直し後の元本債務は38万1100円であっ…
あてはめ
本件において、代物弁済の目的物の時価は債務額の約4.5倍程度であり、客観的な価値の不均衡は認められる。しかし、証拠によれば、被上告人が上告人の窮迫や軽卒に乗じて不当な利益を獲得する目的で本件契約を締結した事実は認められない。したがって、主観的要件である暴利意思を欠く以上、公序良俗に反する暴利行為とはいえない。
結論
本件代物弁済契約は、民法90条により無効であるとはいえない。
実務上の射程
契約内容が一方に著しく有利であるという客観的事実のみでは公序良俗違反とはならず、相手方の状況を利用する主観的な「暴利意思」が必要であることを示す。答案では、公序良俗違反(暴利行為)の検討において、客観的要件と主観的要件を分けて論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)228 / 裁判年月日: 昭和32年2月15日 / 結論: 棄却
元金三五万円、弁済期三〇日後、利息三〇日につき一割、利息を支払えば借主の希望により弁済期を延期するとの約旨の消費貸借契約に付随し、借主が弁済期に元金を支払わないときは、時価三、〇六七、〇〇〇円相当の不動産の所有権を代物弁済として貸主に移転する旨を約したときは、右代物弁済の予約は、特別な事情のないかぎり、貸主が借主の窮迫…
事件番号: 昭和36(オ)1162 / 裁判年月日: 昭和38年1月18日 / 結論: 破棄差戻
譲渡担保契約において、期限に債務の弁済がないときは担保物件を債務の代物弁済に供する旨の約定を含む場合、被担保債権額に比し担保物件の価額が著しく高額であつて、債務者の経済的困窮に乗じて右の約定をなしたものとして右約定部分を公序良俗に反し無効と解すべきときでも、必ずしも譲渡担保契約全部が無効となるとは限らない。
事件番号: 昭和31(オ)464 / 裁判年月日: 昭和34年9月22日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務者が窮迫した事情の下で、債務額の約5倍の価額を有する不動産を代物弁済に供する約定は公序良俗に反し得るが、第三者の支払委託に基づく求償権の担保としての性質も有する場合、その実質的な支払額や求償権の範囲を考慮して慎重に判断すべきである。 第1 事案の概要:債務者(被上告人)は、訴外Dとの間で元金3…