譲渡担保契約において、期限に債務の弁済がないときは担保物件を債務の代物弁済に供する旨の約定を含む場合、被担保債権額に比し担保物件の価額が著しく高額であつて、債務者の経済的困窮に乗じて右の約定をなしたものとして右約定部分を公序良俗に反し無効と解すべきときでも、必ずしも譲渡担保契約全部が無効となるとは限らない。
譲渡担保契約に伴う代物弁済の約定部分を無効と解すべき場合でも譲渡担保契約全体が無効となるとは限らないとされた事例。
民法90条,民法92条,民法555条
判旨
暴利的な代物弁済予約を含む譲渡担保契約において、公序良俗に反し無効となるのは代物弁済の約定のみであり、担保権の実行(清算)を前提とする譲渡担保としての効力までは否定されない。
問題の所在(論点)
債権額に比して著しく高価な物件を担保とする譲渡担保契約において、暴利的な代物弁済の約定が公序良俗に反する場合、契約全体が無効となるか。あるいは清算義務を伴う譲渡担保としての効力は認められるか。
規範
債権者が債務者の窮迫に乗じて、債権額を著しく超過する価値を有する不動産を弁済に代えて取得する旨を約定することは、公序良俗(民法90条)に反し無効である。もっとも、代物弁済の約定が無効であっても、当事者の合理的意思に照らし、無効な部分を切り離して、担保物件を売却・清算して弁済に充てるという「弱い譲渡担保」としての効力を維持すべき場合がある。
重要事実
債務者(被上告人)は、債権者(上告人)から金6万円を借り受ける際、所有する山林等の所有権を移転し、弁済期に支払がないときは債権者が当該不動産を債務の弁済に代えて取得する旨を約した。当時、不動産の価格は60万円を下らず、債務額(利息含め約7万7000円)の約8倍に達していた。債務者が弁済期に支払わなかったため、債権者は不動産の確定的な所有権取得を主張したが、原審は契約全体を公序良俗違反により無効として、所有権移転登記の抹消を命じた。
事件番号: 昭和33(オ)992 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済の予約に基づく所有権移転が、不動産価格と債務額に大きな差がある場合でも、相手方の窮迫等を利用して過当な利益を図る目的がない限り、直ちに公序良俗に反して無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人から37万円を借り受け、利息制限法に基づく引き直し後の元本債務は38万1100円であっ…
あてはめ
本件不動産は債務額の約8倍の価値を有しており、債務者の経済的困窮に乗じて所有権を失わせる代物弁済の約定は公序良俗に反する。しかし、契約全部を無効として無担保の貸借とすることは、むしろ当事者の意思に反する。当事者としては、無担保となるよりは、少なくとも担保物件を売却して売得金から弁済を受ける「弱い譲渡担保」として契約を維持する意思があったと解するのが合理的である。したがって、清算を前提とした譲渡担保の効力まで直ちに否定することはできない。
結論
代物弁済の約定のみが無効であり、譲渡担保契約自体の効力は維持される。したがって、債権者による登記の抹消義務を直ちに認めた原判決は破棄され、差し戻される。
実務上の射程
暴利行為(90条)の効力が一部無効に留まることを示した判例。答案上は、譲渡担保が流抵当特約を含む場合、その暴利性を否定できないときであっても、清算型譲渡担保として構成し直すことで担保権を維持できる根拠として引用する。
事件番号: 昭和38(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。
事件番号: 昭和35(オ)1058 / 裁判年月日: 昭和36年6月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者の窮迫に乗じ不当な代物弁済契約を締結したといった事情がない限り、予約完結権の行使が公序良俗や信義則に反するものとはいえない。また、利息制限法施行前の合意に基づく遅延損害金を計算の基礎とすることも、直ちに権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(債務者)は、被上告人(債権者)との間…
事件番号: 昭和30(オ)228 / 裁判年月日: 昭和32年2月15日 / 結論: 棄却
元金三五万円、弁済期三〇日後、利息三〇日につき一割、利息を支払えば借主の希望により弁済期を延期するとの約旨の消費貸借契約に付随し、借主が弁済期に元金を支払わないときは、時価三、〇六七、〇〇〇円相当の不動産の所有権を代物弁済として貸主に移転する旨を約したときは、右代物弁済の予約は、特別な事情のないかぎり、貸主が借主の窮迫…
事件番号: 昭和32(オ)1208 / 裁判年月日: 昭和36年4月28日 / 結論: 棄却
不動産につき甲、乙、丙と順次所有権が移転したものとして順次所有権移転登記がなされた場合において、各所有権移転行為が無効であるときは、甲が乙、丙に対し各所有権移転登記の抹消登記請求権を有するほか、乙もまた丙に対し所有権移転登記の抹消登記請求権を有する。