判旨
債務者の窮迫に乗じ不当な代物弁済契約を締結したといった事情がない限り、予約完結権の行使が公序良俗や信義則に反するものとはいえない。また、利息制限法施行前の合意に基づく遅延損害金を計算の基礎とすることも、直ちに権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 予約完結権の行使が、公序良俗(90条)または信義則(1条2項)に違反して無効となるか。 2. 利息制限法施行前の約定に基づく遅延損害金の請求が、権利の濫用(1条3項)に該当するか。
規範
予約完結権の行使が公序良俗(民法90条)や信義則(同1条2項)に反するか否かは、債権者が債務者の窮迫に乗じて不当な契約を締結したか否か等の具体的事実関係に基づき判断される。また、約定に基づき発生した遅延損害金を請求することは、それが適法に成立した合意に基づくものである限り、特段の事情がない限り権利の濫用(同1条3項)には当たらない。
重要事実
上告人(債務者)は、被上告人(債権者)との間で、金銭消費貸借契約の担保として、代物弁済の予約および予約完結権の設定を行った。その後、被上告人が予約完結権を行使したため、上告人はこれが公序良俗違反または信義則違反であると主張。また、利息制限法施行前(昭和28年9月)の約定に基づく高率の遅延損害金を残元利金の計算に含めることは権利の濫用であると争った。一審・二審はともに被上告人の請求を認めたため、上告人が上告した。
あてはめ
1. 本件において、債権者が債務者の窮迫に乗じて不当な契約を締結した事実は認められない。したがって、予約完結権の行使を公序良俗違反や信義則違反とする理由はない。 2. 遅延損害金については、現行利息制限法施行前の約定に基づく賠償額の予定であり、これを計算の基礎に含めることは適法な権利行使の範囲内である。 3. 被上告人が上告人による他からの融資を妨害した事実も認められず、権利行使を制限すべき事情は存在しない。
結論
予約完結権の行使は適法であり、公序良俗違反、信義則違反、または権利の濫用のいずれにも該当しない。上告棄却。
事件番号: 昭和33(オ)992 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済の予約に基づく所有権移転が、不動産価格と債務額に大きな差がある場合でも、相手方の窮迫等を利用して過当な利益を図る目的がない限り、直ちに公序良俗に反して無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人から37万円を借り受け、利息制限法に基づく引き直し後の元本債務は38万1100円であっ…
実務上の射程
暴利行為や窮迫状態の利用といった具体的実態がない限り、私的自治の原則に基づき担保権(予約完結権)の行使は広く認められることを示す。権利濫用や公序良俗違反を主張する際のハードルの高さを示す事例として、実務上は反対事実の立証が重要となる。
事件番号: 昭和36(オ)1162 / 裁判年月日: 昭和38年1月18日 / 結論: 破棄差戻
譲渡担保契約において、期限に債務の弁済がないときは担保物件を債務の代物弁済に供する旨の約定を含む場合、被担保債権額に比し担保物件の価額が著しく高額であつて、債務者の経済的困窮に乗じて右の約定をなしたものとして右約定部分を公序良俗に反し無効と解すべきときでも、必ずしも譲渡担保契約全部が無効となるとは限らない。
事件番号: 昭和38(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。
事件番号: 昭和35(オ)504 / 裁判年月日: 昭和38年4月2日 / 結論: 棄却
右登記が右仮登記の本登記手続としてなされ、所有権取得の権利の実際に合致し、登記義務者の意思に基づいてなされたものである以上、当該本登記の抹消登記手続を求めることはできない。
事件番号: 昭和30(オ)228 / 裁判年月日: 昭和32年2月15日 / 結論: 棄却
元金三五万円、弁済期三〇日後、利息三〇日につき一割、利息を支払えば借主の希望により弁済期を延期するとの約旨の消費貸借契約に付随し、借主が弁済期に元金を支払わないときは、時価三、〇六七、〇〇〇円相当の不動産の所有権を代物弁済として貸主に移転する旨を約したときは、右代物弁済の予約は、特別な事情のないかぎり、貸主が借主の窮迫…