判旨
債務者が窮迫した事情の下で、債務額の約5倍の価額を有する不動産を代物弁済に供する約定は公序良俗に反し得るが、第三者の支払委託に基づく求償権の担保としての性質も有する場合、その実質的な支払額や求償権の範囲を考慮して慎重に判断すべきである。
問題の所在(論点)
債務額と目的物の価額に著しい不均衡がある代物弁済予約について、第三者による支払委託及び求償権の発生という事情がある場合に、直ちに公序良俗違反として無効と断じることができるか(民法90条の判断枠組みと審理尽くしの要否)。
規範
暴利行為による公序良俗(民法90条)違反の有無は、単に目的物の価額と債務額の均衡のみならず、契約締結に至る経緯、債務者の困窮の程度、及び契約が有する実質的な権利義務関係(求償権の担保等)の多角的な事情を総合して判断すべきである。
重要事実
債務者(被上告人)は、訴外Dとの間で元金32万円(実質額は約17.4万円未満)の準消費貸借契約を締結し、弁済できない場合に約5倍の価額を有する建物の所有権を移転させる代物弁済の約定をした。この際、仲介者であるA(上告人)はDに対して被上告人の債務の支払を委託され、実際に54万1800円を支払った場合には、その求償権の代物弁済として本件建物の所有権を取得する旨の合意もなされたと主張した。原審は、当初の約定が窮迫した事情下での著しい暴利行為であるとして公序良俗違反による無効を認めた。
あてはめ
原審は、債務の実質額と建物の価額に大きな開きがあることや債務者の窮迫のみを捉えて無効とした。しかし、上告人Aは、被上告人からの委託に基づき実際に54万1800円を支払ったと主張している。この主張が事実であれば、本件約定は単なるDとの間の暴利行為にとどまらず、Aが実際に支出した金額(求償権)に対する代物弁済予約としての性質を包含する。したがって、委託の趣旨、実際に支払われた金額、及びAが被上告人に対して求償できる範囲を審理せずに、一律に公序良俗違反と結論付けることは、審理不尽・理由不備にあたる。
結論
本件約定が直ちに公序良俗に反し無効であるとはいえず、支払委託の事実や求償権の具体的範囲を確定させる必要がある。よって、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
代物弁済予約の暴利性を判断する際、形式的な債務額だけでなく、実質的に支払われた金額や第三者の介入による求償関係など、実質的な経済的利得のバランスを考慮すべきことを示唆している。答案上は、公序良俗違反の判断において「諸般の事情」を考慮する際の具体的事実の拾い方の指針となる。
事件番号: 昭和34(オ)989 / 裁判年月日: 昭和36年6月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務の残額に比して代物弁済の目的物の価格が著しく高価であり、予約完結権の行使が債務者に対しあまりに過酷な場合には、信義則(民法1条2項)または公序良俗(同90条)に反し無効となる。目的物の価格算定においては、単なる建築費のみならず、敷地賃借権の有無等の付加価値も考慮すべきである。 第1 事案の概要…
事件番号: 昭和38(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。
事件番号: 昭和29(オ)854 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
昭和一六年一一月中に締結された代物弁済の予約について、債権者のなした予約完結の意思表示が、右予約成立後、物価の高騰した昭和二二年一〇月中になされた場合であつても、原審認定の事実関係(原判決参照)の下においては、右予約完結の意思表示は信義公平に反するものとは認められない。
事件番号: 昭和32(オ)322 / 裁判年月日: 昭和34年6月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭債務の担保としての代物弁済契約において、目的物の価格が債務額を著しく超過する場合であっても、公序良俗違反等の特段の事情がない限り有効であり、家屋明渡し遅延に関する損害賠償額の予定も原則として有効である。 第1 事案の概要:上告人(債務者)は、約20万円の借入金等の債務を担保するため、時価100…