昭和一六年一一月中に締結された代物弁済の予約について、債権者のなした予約完結の意思表示が、右予約成立後、物価の高騰した昭和二二年一〇月中になされた場合であつても、原審認定の事実関係(原判決参照)の下においては、右予約完結の意思表示は信義公平に反するものとは認められない。
代物弁済の予約成立後、物価の高騰した後になされた予約完結の意思表示が信義公平に反しないと認められた一事例
民法1条,民法482条
判旨
債権額に比して著しく高価な物件を対象とする代物弁済予約であっても、予約時の時価や行使時の諸事情に照らし、直ちに信義公平の原則に反し無効となるとは限らない。
問題の所在(論点)
債権額を大幅に超過する価値を有する物件を対象とした代物弁済予約、およびその予約完結権の行使が、信義公平の原則に反し無効となるか。
規範
代物弁済予約の有効性や予約完結権の行使が認められるかは、予約当時の物件の時価と債権額との均衡、および予約完結時における諸般の事情を総合考慮し、信義公平の原則(民法1条2項)や権利濫用(同条3項)の観点から判断される。
重要事実
債権者(被上告人)は、債務者(上告人)との間で5万2000円の債権を担保するため、本件物件について代物弁済の予約を締結した。上告人は第一・二審において予約当時の時価を6、7万円程度と主張していたが、上告審に至り、物件の市価が債権額の数倍であったとして予約の無効を主張した。また、昭和22年10月の予約完結時には、物件価値が債権額の十数倍に達していたとして、権利行使の無効を主張して上告した。
事件番号: 昭和24(オ)164 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買の予約(民法556条1項)が成立するためには、将来の買受けの相談に応じる意思があるだけでは足りず、具体的な内容の協定が必要である。 第1 事案の概要:不動産の所有者であった上告人は、抵当債務の弁済資力がなく競売に付された際、親譲りの不動産を失うことを惜しみ、親族であるDに対し、後日金策ができた…
あてはめ
まず、予約自体について、上告人が自ら主張していた当時の時価(6、7万円)は債権額(5万2000円)の数倍とはいえず、公平の原則に反するような暴利行為や無効な予約とは認められない。次に、予約完結権の行使について、完結時の物件価値が債権額を上回っていたとしても、原審が認定した事実関係(詳細は判決文からは不明だが、適法な事実認定を前提とする限り)に照らせば、当該行使が直ちに信義公平の観念に反するものとは到底認められない。
結論
本件代物弁済予約の完結権行使は信義公平の原則に反せず、有効である。
実務上の射程
仮登記担保法制定前の判例であり、現在は同法による清算義務(同法3条)が課されるため、権利行使自体の無効を争う実益は限定的である。しかし、公序良俗違反や信義則の一般的判断枠組みとして、予約時と完結時の双方の価値相関を考慮する手法は、非典型担保全般の規律において参照し得る。
事件番号: 昭和30(オ)904 / 裁判年月日: 昭和33年6月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務額を大幅に上回る時価の物件を対象とする代物弁済予約であっても、締結の経緯や相手方の窮迫・無経験に乗じた事実の有無など、諸般の事情を総合考慮して暴利行為にあたらないと判断される場合には、公序良俗に反せず有効である。 第1 事案の概要:債権者である被上告人は、債務者(訴外D)に対し15万円の債権を…
事件番号: 昭和31(オ)464 / 裁判年月日: 昭和34年9月22日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務者が窮迫した事情の下で、債務額の約5倍の価額を有する不動産を代物弁済に供する約定は公序良俗に反し得るが、第三者の支払委託に基づく求償権の担保としての性質も有する場合、その実質的な支払額や求償権の範囲を考慮して慎重に判断すべきである。 第1 事案の概要:債務者(被上告人)は、訴外Dとの間で元金3…
事件番号: 昭和34(オ)989 / 裁判年月日: 昭和36年6月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務の残額に比して代物弁済の目的物の価格が著しく高価であり、予約完結権の行使が債務者に対しあまりに過酷な場合には、信義則(民法1条2項)または公序良俗(同90条)に反し無効となる。目的物の価格算定においては、単なる建築費のみならず、敷地賃借権の有無等の付加価値も考慮すべきである。 第1 事案の概要…
事件番号: 昭和33(オ)734 / 裁判年月日: 昭和35年6月2日 / 結論: 破棄差戻
金融業者が、金二〇万円を、弁済期一ケ月後、利息一ケ月九分の約で貸し付けるにあたり、借主が右債務の支払を怠つたときは、貸主はその支払にかえて時価八〇万円を下らない不動産の所有権を取得することができる旨代物返済の予約をした場合であつても、貸主が、巨利を博すべくはじめから右不動産を処分する意図をもつて、借主側の窮迫、無経験な…