判旨
債務の残額に比して代物弁済の目的物の価格が著しく高価であり、予約完結権の行使が債務者に対しあまりに過酷な場合には、信義則(民法1条2項)または公序良俗(同90条)に反し無効となる。目的物の価格算定においては、単なる建築費のみならず、敷地賃借権の有無等の付加価値も考慮すべきである。
問題の所在(論点)
残債務に比して代物弁済の目的物の価格が著しく高い場合、予約完結権の行使は信義則ないし公序良俗に反して無効となるか。また、その際の「目的物の価格」はどのように判定すべきか。
規範
代物弁済予約の完結が、残債務の額に比して目的物の価格が著しく高価であり、かつ債務者に対してあまりに過酷な結果を招くときは、信義則(民法1条2項)ないし公序良俗(同90条)に反して無効となる。この判断においては、目的物の客観的時価を正確に確定し、残債務額と適切に比較較量しなければならない。
重要事実
上告人は被上告人に対し、建物の代物弁済予約をしていた。被上告人が予約完結権を行使した時点での残債権額は72万6800円であった。当該建物は昭和28年に請負金額140万円(実際には180万円を要したとの主張あり)で建築されたものである。上告人は、残債務が僅少であるのに対し建物価格が著しく高価であり、代物弁済は信義則に反し無効であると主張した。原審は具体的な価格を確定させないまま、著しく高価であると認める証拠がないとして上告人の主張を退けた。
あてはめ
まず、代物弁済当時の目的物の正確な価格を確定すべきである。建物の価格は、単なる建築請負金額のみで判断されるべきではない。特に本件のように、建物の所有に伴いその敷地の賃借権も取得するか否かは、建物の価値に著しく影響を及ぼす要素である。これらの事情を考慮して算定された客観的時価と、残債務額(約72万円)を比較較量し、当該権利行使が債務者にとってあまりに過酷といえるかを判断すべきである。原審が価格を具体的に特定せず、単に「証拠がない」とした点は審理不尽である。
結論
代物弁済予約完結の意思表示が、残債務額に比して著しく高価な目的物を対象とし、債務者に過酷な結果を強いるときは信義則違反等により無効となり得る。価格算定には敷地利用権等の事情も考慮すべきであり、これらを判断せずに請求を排斥した原判決は破棄を免れない。
事件番号: 昭和31(オ)464 / 裁判年月日: 昭和34年9月22日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務者が窮迫した事情の下で、債務額の約5倍の価額を有する不動産を代物弁済に供する約定は公序良俗に反し得るが、第三者の支払委託に基づく求償権の担保としての性質も有する場合、その実質的な支払額や求償権の範囲を考慮して慎重に判断すべきである。 第1 事案の概要:債務者(被上告人)は、訴外Dとの間で元金3…
実務上の射程
民法1条2項(信義則)や90条(公序良俗)を根拠として、暴利的な代物弁済予約の効力を否定する際の判断枠組みとして活用できる。特に「不動産の価格」を論じる際、単なる建築原価だけでなく、敷地利用権(借地権等)の有無が価格形成に不可欠であるという事実は、あてはめの際の評価ポイントとして重要である。
事件番号: 昭和39(オ)1487 / 裁判年月日: 昭和41年9月22日 / 結論: 破棄差戻
停止条件付代物弁済契約は、弁済期日に債務不履行のあつた場合に当初の債務全額の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきであり、債務の一部弁済があつた場合にも、その趣旨は異なるものでなく、その残債務の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきではない。
事件番号: 昭和33(オ)992 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済の予約に基づく所有権移転が、不動産価格と債務額に大きな差がある場合でも、相手方の窮迫等を利用して過当な利益を図る目的がない限り、直ちに公序良俗に反して無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人から37万円を借り受け、利息制限法に基づく引き直し後の元本債務は38万1100円であっ…
事件番号: 昭和29(オ)854 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
昭和一六年一一月中に締結された代物弁済の予約について、債権者のなした予約完結の意思表示が、右予約成立後、物価の高騰した昭和二二年一〇月中になされた場合であつても、原審認定の事実関係(原判決参照)の下においては、右予約完結の意思表示は信義公平に反するものとは認められない。