判旨
売買の予約(民法556条1項)が成立するためには、将来の買受けの相談に応じる意思があるだけでは足りず、具体的な内容の協定が必要である。
問題の所在(論点)
特定の事情の下で、将来の買戻しの意図を伝えて競落を依頼し、相手方がこれを了解して競落した場合に、直ちに民法556条1項にいう売買の予約が成立したと認められるか。
規範
売買の予約が成立したと認められるためには、単に相手方から将来買受けの相談があった際にこれに応ずべき意思を有していたというだけでは足りず、予約完結権の行使条件や代金等、予約に相応する具体的な内容の協定が存することを要する。
重要事実
不動産の所有者であった上告人は、抵当債務の弁済資力がなく競売に付された際、親譲りの不動産を失うことを惜しみ、親族であるDに対し、後日金策ができた際に買い戻して所有権を回復したいという事情を告げて競落を依頼した。Dは右の事情を了し、依頼に応じて本件不動産を競落した。上告人は、これにより競落当日に売買の予約が成立したと主張して本訴を提起した。
あてはめ
本件において、Dが上告人の事情を了して競落した事実は、上告人から将来買受けの相談があるときにこれに応ずべき意思を有していたことを推認させるにすぎない。上告人が主張する「何時にても競落代金をもって売買を完結し得る」といった売買完結の一方的意思表示を可能にする具体的な合意については、これを認めるに足りる証拠がない。したがって、予約成立に不可欠な具体的協定が欠けているといえる。
結論
売買の予約の成立は認められず、予約成立を前提とする上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
契約の成立、特に予約の成立認定において、単なる「動機の了解」や「協議への応諾意思」と「法的拘束力のある予約」を厳格に区別する実務指針となる。答案上は、予約完結権の発生要件として具体的合意の必要性を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(オ)854 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
昭和一六年一一月中に締結された代物弁済の予約について、債権者のなした予約完結の意思表示が、右予約成立後、物価の高騰した昭和二二年一〇月中になされた場合であつても、原審認定の事実関係(原判決参照)の下においては、右予約完結の意思表示は信義公平に反するものとは認められない。
事件番号: 昭和33(オ)26 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】売買の予約の成立を認めるためには、その前提となる事実について証拠に基づき合理的に認定する必要があり、供述内容が予約ではなく本契約の成立を指している場合には、予約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)から土地200坪を単価140円で購入したと主張し、売買一…
事件番号: 昭和39(オ)694 / 裁判年月日: 昭和41年1月21日 / 結論: 破棄差戻
履行期の約定がある場合であつても、当事者が債務の履行期前には履行に着手しない旨合意している等格別の事情のないかぎり、右履行期前に民法第五五七条第一項にいう履行に着手することができないものではない。
事件番号: 昭和45(オ)1229 / 裁判年月日: 昭和46年5月25日 / 結論: 棄却
売買一方の予約において予約完結権を行使するには、代金を提供する必要はないと解するのが相当である。
事件番号: 昭和29(オ)464 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件不動産の所有権移転登記が寄託の趣旨でなされたとの主張に対し、原審がそのような事実を認定していない以上、その前提を欠く論旨は上告理由として認められない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産の所有権移転登記が「寄託」の意味でなされたものであると主張し、原判決の判断を不服として上告した。しかし、…