売買一方の予約において予約完結権を行使するには、代金を提供する必要はないと解するのが相当である。
売買一方の予約における予約完結権の行使と代金の提供の要否
民法556条
判旨
売買の一方の予約に基づく予約完結権の行使においては、買戻権の行使とは異なり、あらかじめ代金を提供することを要しない。
問題の所在(論点)
売買の一方の予約に基づく予約完結権の行使に際し、買戻しの規定を類推し、代金の提供が必要となるか。
規範
売買の一方の予約(民法556条1項)において、予約完結権の行使により本契約を成立させるためには、原則として意思表示のみで足りる。買戻しの特約(同579条)における代金提供の要件は、予約完結権の行使には適用されない。
重要事実
上告人は、訴外Eが本件物件の所有権を喪失しないよう、Eの利益のためにDから本件物件を肩代わりして買い受け、一時的に所有者となった。その際、上告人とEとの間で、EがDに支払った金62万円と同額を支払うことにより、いつでも上告人から物件を買い取ることができる旨の売買の一方の予約が成立した。その後、予約完結の意思表示がなされたが、代金の提供がなされていなかったため、その効力が争われた。
事件番号: 昭和35(オ)687 / 裁判年月日: 昭和37年2月15日 / 結論: 棄却
再売買予約において、代金額は時価を勘案して決定する旨約定された場合には、予約完結の意思表示に、右決定されるべき代金額の申出を含まなくても、当該意思表示として効力を有する。
あてはめ
本件における権利は、買戻権ではなく「売買の一方の予約」に基づき成立したものである。買戻しの規定(民法583条1項)は、売主が受領した代金等を返還して契約を解除する性質上、代金の提供を権利行使の要件とする。しかし、売買の一方の予約は、一当事者の意思表示によって売買契約を成立させる権利であり、特段の合意がない限り、行使段階での代金提供は法律上の要件とされていない。したがって、Eが予約完結権を行使するにあたり、代金を提供しなかったとしても、その行使は有効である。
結論
売買の一方の予約に基づく予約完結権の行使に代金の提供は不要であり、意思表示によって本契約は有効に成立する。
実務上の射程
予約完結権の行使方法に関する基本判例である。答案上では、買戻しと売買予約の性質上の違いを指摘する際に引用する。特に、当事者の意図が担保目的(売渡担保等)であっても、形式が売買予約である限り、代金提供は不要とする論理として活用できる。
事件番号: 昭和24(オ)164 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買の予約(民法556条1項)が成立するためには、将来の買受けの相談に応じる意思があるだけでは足りず、具体的な内容の協定が必要である。 第1 事案の概要:不動産の所有者であった上告人は、抵当債務の弁済資力がなく競売に付された際、親譲りの不動産を失うことを惜しみ、親族であるDに対し、後日金策ができた…
事件番号: 昭和42(オ)359 / 裁判年月日: 昭和42年6月23日 / 結論: 棄却
滞納処分により差押えられている不動産の目的として代物弁済の予約がされても、予約当事者間においては有効である。
事件番号: 昭和29(オ)854 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
昭和一六年一一月中に締結された代物弁済の予約について、債権者のなした予約完結の意思表示が、右予約成立後、物価の高騰した昭和二二年一〇月中になされた場合であつても、原審認定の事実関係(原判決参照)の下においては、右予約完結の意思表示は信義公平に反するものとは認められない。
事件番号: 昭和45(オ)731 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
清算型代物弁済予約の予約権者が、登記簿上利害関係を有する後順位債権者に対して本登記の承諾を求める場合には、右予約権者は、それらの者の債権額および優先順位に応じて清算金を同人らに交付すべき義務があり、同人らは、その交付を受けるのと引換えにのみ右承諾義務の履行をすべき旨を主張しうるものと解すべきである。