金融業者が、金二〇万円を、弁済期一ケ月後、利息一ケ月九分の約で貸し付けるにあたり、借主が右債務の支払を怠つたときは、貸主はその支払にかえて時価八〇万円を下らない不動産の所有権を取得することができる旨代物返済の予約をした場合であつても、貸主が、巨利を博すべくはじめから右不動産を処分する意図をもつて、借主側の窮迫、無経験ないし軽卒に乗じこれを提供させたものと認めがたいときは、ただちに右予約を公序良俗に反し無効のものと解することはできない。
代物返済の予約が公序良俗に反するとはいえないとされた事例。
民法90条,民法482条
判旨
金銭消費貸借上の債務を担保するための代物弁済予約において、目的物の価額が借入額を大幅に超過している場合であっても、直ちに公序良俗に反し無効となるわけではなく、貸主が巨利を博すべく債務者の窮迫に乗じて当初から処分目的で提供させたか等の事情を総合考慮すべきである。
問題の所在(論点)
借入額の約4倍に相当する高価な不動産を目的物とする代物弁済予約について、それが債務者側の無経験や軽卒に乗じたものとして公序良俗に反し無効となるか。
規範
債務の履行を担保するための代物弁済予約が、公序良俗(民法90条)に反し無効とされるか否かは、単に担保物の価額と被担保債権額の均衡のみで判断すべきではない。貸主が巨利を博すべく債務者の窮迫に乗じ、当該担保物を初めから処分する目途の下に提供させたか否かという主観的態様や、債務者の経験、取引の計画性、弁済期設定の合理性等の諸事情を総合して判断すべきである。
重要事実
Eは、子Dの了解の下、D所有の土地建物(価額80万円以上)を担保に、金融業者から20万円を借用した。その際、1か月後の弁済期に支払を怠ったときは、担保物件の所有権を取得させる旨の代物弁済予約を締結した。Eはパチンコ屋経営の資金として本件借入れを行い、利益で即座に回収できると期待していた。また、Eは過去にもD所有不動産を担保とした借入れや分筆処分等の経験があった。
事件番号: 昭和33(オ)714 / 裁判年月日: 昭和35年10月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】利息制限法を超える利息の天引がある場合、制限内の利息と現実交付額の合計額で消費貸借が成立する。また、暴利行為による公序良俗違反の判断では、代物弁済目的物の時価と債務額を対比し、借地上の建物については借地権の価格を適切に斟酌すべきである。 第1 事案の概要:債権者と債務者が、元金20万円、利息月5分…
あてはめ
本件では、債権額20万円に対し担保物価額が80万円とバランスを欠く面はある。しかし、Eは過去に不動産処分等の経験があり、本件取引も計画的になされた可能性が否定できない。また、Eはパチンコ屋の収益により短期間での返済が可能と期待しており、1か月という弁済期の設定も直ちに軽卒な判断とはいえない。加えて、貸主がEの窮迫に乗じ、当初から物件を処分して巨利を博す意図があったことを裏付ける事実も認められない。
結論
本件代物弁済予約が公序良俗に反し無効であると断定することはできず、更なる審理を要する。
実務上の射程
暴利行為(90条)の成否に関し、客観的な価値の不均衡(給付と反対給付の不均衡)だけでなく、債務者の窮迫・無経験に乗じたかという主観的・態様的要素を厳格に要求する射程を持つ。答案上は、代物弁済予約の有効性を検討する際の「暴利行為」の判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)992 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済の予約に基づく所有権移転が、不動産価格と債務額に大きな差がある場合でも、相手方の窮迫等を利用して過当な利益を図る目的がない限り、直ちに公序良俗に反して無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人から37万円を借り受け、利息制限法に基づく引き直し後の元本債務は38万1100円であっ…
事件番号: 昭和33(オ)26 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】売買の予約の成立を認めるためには、その前提となる事実について証拠に基づき合理的に認定する必要があり、供述内容が予約ではなく本契約の成立を指している場合には、予約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)から土地200坪を単価140円で購入したと主張し、売買一…
事件番号: 昭和34(オ)281 / 裁判年月日: 昭和35年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】利息制限法所定の制限を超える利息が任意に支払われた場合、その超過部分は債務者から取り戻すことができない。また、公序良俗違反による無効は、無思慮や窮状に乗じた不当な契約であるといった具体的な事情が認められない限り肯定されない。 第1 事案の概要:上告人(債務者)は、被上告人(債権者)から金員を借り受…