判旨
金銭債務の担保としての代物弁済契約において、目的物の価格が債務額を著しく超過する場合であっても、公序良俗違反等の特段の事情がない限り有効であり、家屋明渡し遅延に関する損害賠償額の予定も原則として有効である。
問題の所在(論点)
1. 債務額を大幅に上回る価格の物件を対象とした代物弁済契約が、暴利行為等として無効となるか。 2. 建物明渡し遅延に関する損害賠償額の予定の特約が権利の濫用として無効となるか。
規範
1. 債務の担保としてなされた代物弁済契約は、目的物の価格が債務額を超過していたとしても、直ちに無効となるものではなく、公序良俗違反や暴利行為に該当するなどの特段の事情がない限り、私法上の効力を有する。 2. 建物明渡し義務の不履行に備えた損害賠償額の予定(民法420条1項)は、その額が著しく不当でない限り、契約自由の原則に基づき有効である。
重要事実
上告人(債務者)は、約20万円の借入金等の債務を担保するため、時価100万円以上とされる本件建物を目的とする代物弁済契約を締結した。また、家屋の明渡しを怠った場合には1日につき600円の損害賠償金を支払う旨の特約も付されていた。上告人は、債務額と建物価格の著しい不均衡を理由に代物弁済契約の無効を主張し、さらに損害賠償特約が権利の濫用にあたると主張して争った。
あてはめ
1. 代物弁済契約について、原審において建物価格が債務額を著しく超過するといった抗弁の基礎事実を認めるに足りる証拠がないと判断されており、公序良俗違反等の無効事由は認められない。 2. 損害賠償額の予定についても、1日600円という金額設定が公序良俗に反したり、権利の濫用と評されるべき特段の事情は見当たらない。 3. したがって、契約の内容はいずれも有効と解される。
結論
本件代物弁済契約および損害賠償額の予定の特約は有効であり、上告人の主張は採用できない。
事件番号: 昭和30(オ)972 / 裁判年月日: 昭和32年7月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務額と代物弁済の目的物の価格に開きがある場合でも、債権者が債務者の無知や窮迫に乗じて暴利を貪ったという事情がなく、債務者に弁済の目途があったといえる状況下では、当該代物弁済契約は公序良俗に反しない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人は、債務の代物弁済として土地建物を譲渡する契約を締結した。当時…
実務上の射程
本判決は、譲渡担保や代物弁済予約における清算金支払義務の法理が確立する前の古い判例ではあるが、契約自由の原則を基礎とし、公序良俗違反(民法90条)のハードルが高いことを示している。実務上は、暴利行為の成否を検討する際の比較材料となるが、現代では利息制限法や消費者契約法、譲渡担保の清算義務等の特別法・法理が優先される点に留意が必要である。
事件番号: 昭和32(オ)560 / 裁判年月日: 昭和34年6月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】譲渡担保契約や代物弁済契約が公序良俗に反するか否かは、貸金額、弁済期、利息、担保物件の価格等の諸事情を総合的に考慮して判断されるべきであり、本件の貸金条件と担保価格の差のみでは直ちに暴利行為として無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人から20万円を借受ける際、月利8分、弁済期を6…
事件番号: 昭和32(オ)1201 / 裁判年月日: 昭和34年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が元本の一部を弁済したとしても、当然に代物弁済予約を失効させる合意があったとは認められず、また予約完結権を行使し得る状況でこれを行使せず債務の履行を一部受けていたとしても、特段の事情がない限り、それは権利の放棄ではなく履行の猶予と解される。 第1 事案の概要:債権者(被上告人)と債務者(上告…
事件番号: 昭和31(オ)464 / 裁判年月日: 昭和34年9月22日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務者が窮迫した事情の下で、債務額の約5倍の価額を有する不動産を代物弁済に供する約定は公序良俗に反し得るが、第三者の支払委託に基づく求償権の担保としての性質も有する場合、その実質的な支払額や求償権の範囲を考慮して慎重に判断すべきである。 第1 事案の概要:債務者(被上告人)は、訴外Dとの間で元金3…