刑事確定訴訟記録法に基づく判決書の閲覧請求について,「プライバシー部分を除く」とする限定の趣旨を申立人に確認することなく,閲覧の範囲を検討しないまま,民事裁判においてその内容が明らかにされるおそれがあるというだけの理由で同法4条2項4号及び5号の閲覧制限事由に該当するとして判決書全部の閲覧を不許可とした保管検察官の処分には,同条項の解釈適用を誤った違法がある。
刑事確定訴訟記録法に基づく判決書の閲覧請求を不許可とした保管検察官の処分が同法4条2項4号及び5号の解釈適用を誤っているとされた事例
刑事確定訴訟記録法4条1項,刑事確定訴訟記録法4条2項
判旨
刑事確定訴訟記録法(以下「法」という。)4条2項4号・5号に基づく閲覧不許可処分につき、対象が「判決書」である場合には、同条項の閲覧制限事由に当たる可能性があっても直ちに全部を不許可とすべきではなく、検察官は「プライバシー部分を除く」等の請求趣旨を確認した上で、制限事由に当たらない範囲で閲覧を許可すべきである。
問題の所在(論点)
刑事確定訴訟記録のうち、特に公開の法廷で言い渡された「判決書」の閲覧請求に対し、名誉毀損や更生妨害のおそれ(法4条2項4号・5号)を理由にその全部を不許可とすることが許されるか。
規範
判決書は、国家刑罰権の行使に関する裁判所の判断を示した重要な記録であり、裁判の公正担保の目的から一般の閲覧に供する必要性が極めて高い。したがって、閲覧により被告人の前科や関係者の関与が明らかになるおそれがあり法4条2項4号・5号の制限事由に当たる可能性があっても、直ちに全部を不許可とすべきではない。保管検察官は、請求者に釈明を求めて限定の趣旨を確認するなどし、できる限り閲覧を許可する方向で検討すべきであり、これを怠って全部を不許可とすることは法の解釈適用を誤った違法な処分となる。
重要事実
事件番号: 平成27(し)428 / 裁判年月日: 平成27年10月27日 / 結論: 棄却
刑事確定訴訟記録法4条1項ただし書,刑訴法53条1項ただし書にいう「検察庁の事務に支障のあるとき」には,保管記録を請求者に閲覧させることによって,その保管記録に係る事件と関連する他の事件の捜査や公判に不当な影響を及ぼすおそれがある場合が含まれる。
申立人(弁護士)は、民事訴訟の準備のため、組織犯罪処罰法違反被告事件の確定記録のうち第1審の「判決書」につき、「プライバシー部分を除く」範囲での閲覧を請求した。これに対し保管検察官は、閲覧により民事裁判の相手方等に被告人の前科や会社関係者の犯行関与が知れ渡るおそれがあるとして、法4条2項4号(名誉・プライバシー保護)及び5号(更生妨げ)を理由に、判決書全部を不許可とした。原決定も、申立人の閲覧の必要性が低いとして準抗告を棄却した。
あてはめ
本件閲覧請求の対象は、一般の閲覧に供する必要性が高い「判決書」である。確かに、民事裁判で内容が明らかにされることで法4条2項4号・5号の事由に該当する可能性は否定できない。しかし、申立人はあらかじめ「プライバシー部分を除く」との限定を付して請求している。保管検察官としては、この限定の趣旨を釈明等により確認し、制限事由に当たらない方法(黒塗り等)を講じつつ閲覧を許可する余地を検討すべきであったといえる。それにもかかわらず、範囲を検討せず漫然と全部を不許可とした処分は、法の趣旨に照らし許されない。
結論
本件判決書の全部不許可処分は法4条2項4号・5号の解釈適用を誤った違法なものであり、これを取り消さないことは著しく正義に反する。よって、原決定及び本件不許可処分を取り消す。
実務上の射程
刑事確定訴訟記録法4条2項各号の該当性判断において、対象記録が「判決書」である場合の特殊性(公開原則・公正担保の要請)を強調し、検察官に裁量権の適切な行使(部分開示の検討義務)を求めた。答案上は、閲覧制限事由の該当性判断に際し、記録の性質に応じた必要性の強弱を考慮する際の規範として活用できる。
事件番号: 平成20(し)30 / 裁判年月日: 平成20年6月24日 / 結論: 棄却
1 訴訟関係人のする刑事確定訴訟記録法に基づく保管記録の閲覧請求であっても,関係人の名誉又は生活の平穏を害する行為をする目的でされたなど,権利の濫用に当たる場合は許されない。 2 訴訟関係人がした関係者の身上,経歴等プライバシーに関する部分についての閲覧請求が,当該関係者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする目的でされ…
事件番号: 平成4(し)114 / 裁判年月日: 平成4年12月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法82条2項但書は、刑事確定訴訟記録の閲覧を権利として要求できることまでを認めたものではない。したがって、閲覧の制限を定めた刑事確定訴訟記録法等の規定は同条に違反しない。 第1 事案の概要:抗告人が、刑事確定訴訟記録法4条2項及び刑事訴訟法53条3項に基づき刑事確定訴訟記録の閲覧を求めたが、認め…
事件番号: 平成27(し)401 / 裁判年月日: 平成27年12月14日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】刑事確定訴訟記録法4条2項5号の閲覧制限事由の該否は、当該情報を公開することで関係人の名誉や生活の平穏を著しく害するおそれがあるか、及び裁判の公正を担保するために公開が必要な範囲を総合的に判断して決定すべきである。 第1 事案の概要:閲覧請求人は、放射性物質に汚染された木材チップの廃棄事件(廃棄物…
事件番号: 平成13(し)299 / 裁判年月日: 平成14年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事確定訴訟記録法に基づき検察官が行う記録の閲覧等に関する処分は、同法8条1項にいう「閲覧に関する処分」に該当しないため、刑事訴訟法430条1項による準抗告の対象とならない。 第1 事案の概要:本件において、申立人は検察官に対し刑事確定訴訟記録の閲覧を求めたが、検察官はこれに対し何らかの拒否または…