所有する船舶の一部につき船舶運航代理業者を傭船者とする裸傭船契約と自らを傭船者とする定期傭船契約を締結するとともに労働協約の更新を拒否するなどした使用者の行為が不当労働行為に当たるとの労働組合からの申立てを受けた労働委員会が,当該使用者に対し,(1)上記各契約に係る船舶を自らの運航業務に使用する場合は当該労働組合の組合員の乗り組んでいる当該船舶を使用しなければならない旨,(2)当該労働組合が上記各契約等について団体交渉を申し入れたときはこれに誠実に応じなければならない旨,(3)労働協約締結に関する団体交渉が実質的かつ公正に行われ具体的な結論が出されるまでは従前の労働協約に従って当該労働組合との労使関係を営まなければならない旨,(4)当該労働組合の組合員である特定の従業員に所定の手当を支払わなければならない旨,(5)労働委員会が不当労働行為と認定した行為を繰り返さないよう留意すること等を記載した文書を当該労働組合に手交しなければならない旨を命ずる救済命令を発した場合において,当該使用者が船舶の運航事業を営む会社として存続し,当該労働組合も多数の船員等を組合員とする産業別労働組合として存続しているという事実関係の下では,当該使用者が上記救済命令の取消しを求める訴えの利益は,当該使用者に雇用されている当該労働組合の組合員がいなくなり,裸傭船契約の対象とされていない当該使用者の所有船舶がなくなるという発令後の事情変更によっても,失われない。 (補足意見がある。) 裸傭船契約 :船舶所有者と船舶借入人との間の船体に係る賃貸借契約であり,船舶借入人が船長及び海員を配乗して船舶を運航し運航費用等を負担することを内容とするもの 定期傭船契約:傭船者が船舶所有者又は船舶借入人から船舶賃貸と労務供給の双方を受けることを内容とする契約
労働組合からの申立てを受けて労働委員会が発した救済命令の取消しを求める訴えの利益が,使用者に雇用されている当該労働組合の組合員がいなくなるなどの発令後の事情変更によっても失われないとされた事例
行政事件訴訟法9条1項,労働組合法27条の12第1項,労働組合法27条の12第4項,労働組合法(平成20年法律第26号による改正前のもの)19条の13第1項,労働組合法(平成20年法律第26号による改正前のもの)19条の13第4項前段,労働委員会規則45条1項
判旨
不当労働行為の救済命令発令後に、使用者の所有船舶がなくなる、又は組合員がいなくなるといった事情変更が生じても、使用者が事業を継続し労働組合も存続している限り、救済命令の各項は当然にその効力を失うものではなく、その取消しを求める訴えの利益は失われない。
問題の所在(論点)
救済命令発令後の事情変更(組合員の不在や運行船舶の消滅)により、命令の各義務の履行が客観的に不可能となったとして、救済命令の取消しを求める訴えの利益が失われるか(行政事件訴訟法9条1項参照)。
事件番号: 昭和61(行ツ)109 / 裁判年月日: 昭和62年4月16日 / 結論: 棄却
一 労働委員会規則四二条二項による意見聴取は、審問に参与した使用者委員及び労働者委員に公益委員会議への出席を求め、その席上で右委員の意見を聴取する方法によるものでなければならない。 二 公益委員会議が労働委員会規則四二条二項に違反し、審問に参与した使用者委員及び労働者委員の意見を聴取しなかつたとしても、それによつて救済…
規範
労働委員会が発する救済命令の取消訴訟において、訴えの利益が失われるのは、命令が命ずる義務の履行が客観的に不可能となったことで、命令が当然にその効力を失い、その存在を無視し得る状態に至った場合に限られる。義務の履行が客観的に不可能である、または救済の手段方法としての意味を失ったとまでいえない限り、命令は効力を維持し、取消しを求める訴えの利益は存続する。
重要事実
船舶曳航業者である会社(被上告人)が、産業別労働組合(上告補助参加人)に対し、傭船契約の締結による組合員の排除や労働協約の更新拒否等の不当労働行為を行ったとして、労働委員会から、①組合員の船舶への配乗義務、②団体交渉応諾義務、③特別手当の支払義務、④ポスト・ノーティス(文書手交)義務等を命ずる救済命令を受けた。その後、唯一の残存組合員が退職して組合員が不在となり、かつ自社で運航可能な所有船舶も売却等により存在しない状態となった。原審は、これら事後的な事情変更により、命令の履行が客観的に不可能、または救済方法としての意義を失ったとして、訴えの利益を否定し却下した。
あてはめ
まず、配乗義務(①)や労働協約上の関係維持(②)について、会社は事業を継続し、組合も産業別組合として存続している以上、将来的に組合員を雇用し配乗すること等は客観的に不可能とまではいえず、救済手段としての意味も失われていない。次に、団体交渉応諾(②)、手当支払(③)、文書手交(④)についても、事柄の性質上、履行が客観的に不可能とはいえず、依然として不当労働行為により侵害された団結権の原状回復措置としての意義を有する。したがって、いずれの命令についても、その存在を無視し得るほど完全に効力を失った状態とはいえないため、訴えの利益は失われていないと解される。
結論
救済命令の内容が発令後の事情変更によって当然に効力を失ったとはいえないから、その取消しを求める訴えの利益は失われない。原判決を破棄し、広島高裁に差し戻す。
実務上の射程
労働者不在等の形式的事由のみで直ちに訴えの利益を否定せず、事業継続の有無や組織の存続を重視して、救済命令の実効性を広く認める判断枠組みを示した。答案作成上は、事情変更があった場合でも「客観的履行不能」のハードルを高く設定する根拠として活用できる。
事件番号: 平成4(行ツ)120 / 裁判年月日: 平成7年2月23日 / 結論: その他
組合員が存在しなくなったことなどにより労働組合が自然消滅した場合には、その組合が清算法人として存続していたとしても、使用者に対し右組合への金員の支払を命じていた救済命令の拘束力は失われ、その結果、右命令の取消しを求める訴えの利益は失われる。
事件番号: 昭和59(行ツ)235 / 裁判年月日: 昭和62年4月2日 / 結論: その他
不当労働行為によつて解雇された労働者が解雇期間中他の職に就いて収入を得ていた場合に、労働委員会が、右労働者の救済命令において解雇期間中の賃金相当額の遡及支払を命ずるに当たり、当該解雇が右労働者の属する労働組合の他の組合員に対する出勤停止処分と共に右労働組合に対し打撃を加える目的の下にされたものであるとの事情を考慮に入れ…
事件番号: 昭和56(行ツ)205 / 裁判年月日: 昭和60年7月19日 / 結論: その他
一 法律上独立した権利義務の帰属主体でない法人組織の構成部分は、労働組合法二七条及び七条所定の使用者に当たらない。 二 法律上独立した権利義務の帰属主体でない法人組織の構成部分を名宛人とする救済命令は、当該法人に対し命令の内容を実現することを義務付けるものとして、効力を有する。 三 法律上独立した権利義務の帰属主体でな…