1 市がその職員を派遣し又は退職の上在籍させている団体に対し公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律所定の手続によらずに上記職員の給与相当額の補助金又は委託料を支出したことにつき,次の(1)〜(4)など判示の事情の下では,市長に過失があるとはいえない。 (1) 同法は,地方公共団体が上記団体に支出した補助金等が上記職員の給与に充てられることを禁止する旨の明文の規定は置いていない。 (2) 同法の制定の際の国会審議において,地方公共団体が営利法人に支出した補助金が当該法人に派遣された職員の給与に充てられることの許否は公益上の必要性等に係る当該地方公共団体の判断による旨の自治政務次官の答弁がされていた。 (3) 同法の制定後,総務省の担当者も,上記団体における上記職員の給与に充てる補助金の支出の適否は同法の適用関係とは別途に判断される旨を上記市や他の地方公共団体の職員に対して説明していた。 (4) 法人等に派遣された職員の給与に充てる補助金の支出の適法性に関し,同法の施行前に支出された事例については裁判例の判断が分かれており,同法の施行後に支出がされた事例については同法と上記支出の関係について直接判断した裁判例はいまだ現れていなかった。 2 普通地方公共団体が条例により債権の放棄をする場合には,その長による公布を経た当該条例の施行により放棄の効力が生じ,その長による別途の意思表示を要しない。 3 住民訴訟の対象とされている普通地方公共団体の不当利得返還請求権を放棄する旨の議会の議決がされた場合において,当該請求権の発生原因である公金の支出等の財務会計行為等の性質,内容,原因,経緯及び影響(その違法事由の性格や当該支出等を受けた者の帰責性等を含む。),当該議決の趣旨及び経緯,当該請求権の放棄又は行使の影響,住民訴訟の係属の有無及び経緯,事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して,これを放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らして不合理であってその裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは,その議決は違法となり,当該放棄は無効となる。 4 市がその職員を派遣し又は退職の上在籍させている団体に対し公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律所定の手続によらずに上記職員の給与相当額の補助金又は委託料を支出したことが違法であるとして提起された住民訴訟の係属中に,その請求に係る市の当該各団体に対する不当利得返還請求権を放棄する旨の条例が制定された場合において,次の(1)〜(5)など判示の事情の下では,その制定に係る市議会の議決はその裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとはいえず適法であり,当該放棄は有効である。 (1) 当該請求権の発生原因である補助金又は委託料の支出に係る違法事由は,当該各団体における上記職員の給与等に充てる公金の支出の適否に関する同法の解釈に係るものであり,当該各団体においてその支出の当時これが同法の規定又はその趣旨に違反するものであるとの認識に容易に至ることができる状況にはなかった。 (2) 当該各団体には,不法な利得を図るなどの目的はなく,補助金又は委託料の支出という給与等の支給方法の選択に自ら関与したなどの事情もうかがわれない。 (3) 当該各団体の活動を通じて医療,福祉,文化,産業振興,防災対策,住宅供給,都市環境整備,高齢者失業対策等の各種サービスの提供という形で住民に相応の利益が還元されており,当該各団体が不法な利益を得たものということはできない。 (4) 上記条例全体の趣旨は,上記住民訴訟における第1審判決の判断を尊重し,同法の趣旨に沿った透明性の高い給与の支給方法を採択したものといえ,上記条例に係る議会での審議の過程では,上記補助金及び委託料の返還を直ちに余儀なくされることによって当該各団体の財政運営に支障が生ずる事態を回避すべき要請も考慮した議論がされている上,上記補助金及び委託料に係る不当利得返還請求権の放棄によって市の財政に及ぶ影響は限定的なものにとどまる。 (5) 上記住民訴訟を契機に,市から法人等に派遣される職員への給与の支給に関する条例の改正が行われ,以後,市がその職員を派遣し又は退職の上在籍させている団体において市の補助金又は委託料を上記職員の給与等に充てることがなくなるという是正措置が既に採られている。 (3,4につき補足意見がある。)
1 市がその職員を派遣し又は退職の上在籍させている団体に対し公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律所定の手続によらずに上記職員の給与相当額の補助金又は委託料を支出したことにつき,市長に過失があるとはいえないとされた事例 2 普通地方公共団体が条例により債権の放棄をする場合におけるその長による放棄の意思表示の要否 3 住民訴訟の対象とされている普通地方公共団体の不当利得返還請求権を放棄する旨の議会の議決の適法性及び当該放棄の有効性に関する判断基準 4 住民訴訟の係属中にされたその請求に係る市の不当利得返還請求権を放棄する旨の条例の制定に係る市議会の議決が適法であり,当該放棄が有効であるとされた事例
(1につき)公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(平成18年法律第50号による改正前のもの)2条1項,公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律6条1項,公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律6条2項,公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律10条1項,公益的法人等への職員の派遣等に関する条例(平成13年神戸市条例第49号。平成21年神戸市条例第28号による改正前のもの)2条1項1号,公益的法人等への職員の派遣等に関する条例(平成13年神戸市条例第49号。平成21年神戸市条例第28号による改正前のもの)2条1項2号,公益的法人等への職員の派遣等に関する条例(平成13年神戸市条例第49号。平成21年神戸市条例第28号による改正前のもの)4条,公益的法人等への職員の派遣等に関する条例(平成13年神戸市条例第49号。平成21年神戸市条例第28号による改正前のもの)10条2号 (2〜4につき) 地方自治法16条2項,地方自治法96条1項10号,地方自治法242条の2第1項4号,平成21年神戸市条例第28号附則5条
判旨
住民訴訟の対象である損害賠償請求権等を議会が条例等で放棄する場合、その適否は議会の裁量に委ねられるが、諸般の事情を総合考慮して不合理と認められるときは裁量権の逸脱・濫用として無効となる。
問題の所在(論点)
住民訴訟の対象となっている損害賠償請求権や不当利得返還請求権を、地方自治法96条1項10号に基づき議会の議決(条例)によって放棄することの可否、およびその適法性判断の枠組みが問題となる。
規範
普通地方公共団体の議会による権利放棄の議決は、原則として議会の裁量に委ねられる。もっとも、住民訴訟の対象である請求権を放棄する場合、①当該請求権の発生原因(財務会計行為等の性質・内容・原因・経緯・影響・帰責性)、②議決の趣旨・経緯、③放棄・行使が与える影響、④住民訴訟の係属状況、⑤事後の是正状況等の諸般の事情を総合考慮し、放棄が地方自治法の趣旨に照らして不合理であり、裁量権の範囲を逸脱または濫用したと認められるときは、当該議決は違法・無効となる。
重要事実
神戸市は、外郭団体等に職員を派遣する際、派遣法の定める直接支給の手続を執らず、団体への「補助金等」の支出を通じて派遣職員の人件費を実質的に負担していた。住民がこの支出を違法として、当時の市長への損害賠償請求等を求める住民訴訟を提起した。訴訟係属中、市議会は派遣職員への給与支給方法を適正化する条例改正を行うとともに、附則で本件訴訟に係る損害賠償請求権等を放棄する旨を定めた。原審は、この権利放棄の議決は住民訴訟制度を否定するものであり、議決権の濫用にあたり無効と判断した。
あてはめ
まず、市長には派遣法の解釈に関し過失が認められない。次に、団体側の不当利得返還請求権について検討する。①団体側は公益的活動に従事しており、本件支出は人件費という必要経費に充てられ住民に利益が還元されているため、団体側に特段の帰責性はない。②議決の経緯として、今後の支給方法を適正化する是正措置が併せて講じられている。③権利行使により団体の財政が破綻すれば、住民サービスに支障を来すおそれがある。④本件議決が住民訴訟を回避し制度を否定する目的でなされた等の濫用的な事情も認められない。以上より、本件の権利放棄は不合理とはいえない。
結論
本件各請求権の放棄を内容とする本件改正条例の議決は、議会の裁量権の範囲内であり適法である。したがって、本件附則の施行により請求権は消滅した。
実務上の射程
住民訴訟係属中の議会による「後出し」の権利放棄を認めた極めて重要な判例。答案では、単に「裁量がある」とするのではなく、判例が示した5つの考慮要素を事実関係に即して具体的に検討することが求められる。特に、是正措置の有無や住民サービスへの影響が重視される。
事件番号: 平成22(行ヒ)136 / 裁判年月日: 平成24年4月23日 / 結論: 破棄差戻
1 住民訴訟の対象とされている普通地方公共団体の損害賠償請求権を放棄する旨の議会の議決がされた場合において,当該請求権の発生原因である公金の支出等の財務会計行為等の性質,内容,原因,経緯及び影響(その違法事由の性格や当該職員の帰責性等を含む。),当該議決の趣旨及び経緯,当該請求権の放棄又は行使の影響,住民訴訟の係属の有…
事件番号: 平成29(行ヒ)185 / 裁判年月日: 平成30年10月23日 / 結論: 破棄自判
市が,その経営する競艇事業に関して,競艇場に近接する水面に漁業権の設定を受けている漁業協同組合に対し公有水面使用協力費を支出したことが違法であるとして提起された住民訴訟の係属中に,その請求に係る当該支出を行った公営企業の管理者に対する損害賠償請求権及び上記組合に対する不当利得返還請求権を放棄する旨の市議会の議決がされた…
事件番号: 昭和58(行ツ)149 / 裁判年月日: 昭和63年3月10日 / 結論: その他
普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関としての機能を適切に果たすために合理的な必要性があるときは、その裁量により議員を海外に派遣することができる。