1 普通地方公共団体がその議会の議決により債権を放棄する場合には,条例による場合を除き,放棄の効力が生ずるにはその長による執行行為としての放棄の意思表示を要する。 2 市の非常勤職員への退職慰労金の支給が違法であるとして提起された住民訴訟の係属中に,その請求に係る市長及び担当職員に対する市の損害賠償請求権を放棄する旨の市議会の議決がされた場合において,放棄に係る裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無を判断するに当たって考慮されるべき諸般の事情のうち,当該議決の存在について認定判断するのみで,上記支給に係る違法事由の有無及び性格や市長及び担当職員の故意又は過失等の帰責性の有無及び程度を始め,上記支給の性質,内容,原因,経緯及び影響,当該議決の趣旨及び経緯,当該請求権の放棄又は行使の影響,上記住民訴訟の経緯,事後の状況などの事情について審理することなく,直ちに当該議決が適法であるとした原審の判断には,違法がある。 (2につき補足意見がある。)
1 普通地方公共団体がその議会の議決により債権の放棄をする場合におけるその長による放棄の意思表示の要否 2 住民訴訟の係属中にされたその請求に係る市の損害賠償請求権を放棄する旨の市議会の議決が適法であるとした原審の判断に違法があるとされた事例
(1,2につき)地方自治法96条1項10号,地方自治法242条の2第1項4号 (1につき)地方自治法149条6号
判旨
普通地方公共団体が住民訴訟の対象となる損害賠償請求権を議会の議決に基づき放棄する場合、その議決が諸般の事情を総合考慮して不合理と認められるときは、議会の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法・無効となる。また、議決のみでは放棄の効力は生じず、長による執行行為(意思表示)を要する。
問題の所在(論点)
1. 地方自治法96条1項10号に基づく権利放棄の議決に対し、長による執行行為が必要か。 2. 住民訴訟の対象である損害賠償請求権を放棄する議決が、裁量権の逸脱・濫用として違法となる判断枠組みは何か。
規範
1. 議決の効力:権利の放棄は長の担任事務(地方自治法149条6号)に含まれる債務免除の性質を有するため、議決に加え、長による執行行為としての放棄の意思表示を要する。 2. 裁量権の逸脱・濫用:住民訴訟の対象となる請求権の放棄に関する議決の適否は、議会の裁量に委ねられる。ただし、①当該請求権の発生原因(財務会計行為の性質・内容・原因・経緯・影響、職員等の帰責性)、②議決の趣旨・経緯、③放棄又は行使の影響、④住民訴訟の係属状況、⑤事後の状況等の諸般の事情を総合考慮し、普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする同法の趣旨に照らして不合理なときは、裁量権の逸脱・濫用として無効となる。
事件番号: 平成29(行ヒ)185 / 裁判年月日: 平成30年10月23日 / 結論: 破棄自判
市が,その経営する競艇事業に関して,競艇場に近接する水面に漁業権の設定を受けている漁業協同組合に対し公有水面使用協力費を支出したことが違法であるとして提起された住民訴訟の係属中に,その請求に係る当該支出を行った公営企業の管理者に対する損害賠償請求権及び上記組合に対する不当利得返還請求権を放棄する旨の市議会の議決がされた…
重要事実
大阪府大東市は、要綱に基づき非常勤職員に退職慰労金を支給していた。住民は、これが給与条例主義(地方自治法204条の2等)に違反するとして、当時の市長Aらに対し損害賠償等を求める住民訴訟を提起した。第一審が請求を一部認容した後、市議会はAらに対する損害賠償請求権を放棄する旨の議決(本件議決)を行った。原審は、権利放棄は議会の合理的判断に委ねられているとして、支出の違法性や帰責性を審理せずに議決を有効と判断し、請求を棄却した。
あてはめ
1. 原審は、本件議決後に市長による放棄の意思表示がなされたか否かを審理しておらず、手続的要件の確認に欠ける。 2. 実体的要件について、原審は本件議決の存在のみを理由に有効としたが、退職慰労金支給の違法性の強弱やAらの帰責性(故意・過失の程度)、議決に至る具体的経緯、住民訴訟制度の趣旨との整合性といった「諸般の事情」を全く検討していない。これらの審理を尽くさずに直ちに議決を適法とした判断には、法令の解釈適用の誤りがある。
結論
原判決を破棄し、市長による放棄の意思表示の有無、及び諸般の事情を総合考慮した裁量権逸脱・濫用の有無を審理させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
住民訴訟における権利放棄議決の有効性を争う際のリーディングケースである。答案では、単に議決があることのみをもって請求を棄却せず、本判例が挙げた考慮要素(特に違法性の程度や職員の帰責性)を具体的事実に即してあてはめる必要がある。また、議決と意思表示の二段階の手続が必要である点にも注意を要する。
事件番号: 平成22(行ヒ)102 / 裁判年月日: 平成24年4月20日 / 結論: 破棄自判
1 市がその職員を派遣し又は退職の上在籍させている団体に対し公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律所定の手続によらずに上記職員の給与相当額の補助金又は委託料を支出したことにつき,次の(1)〜(4)など判示の事情の下では,市長に過失があるとはいえない。 (1) 同法は,地方公共団体が上記団体に支出した補助…
事件番号: 平成23(行ヒ)452 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 破棄差戻
広域連合がし尿及び浄化槽汚泥の積替え保管施設等の用地として土地を賃借する契約につき,上記用地を確保するため当該土地を賃借する必要性,上記施設の性質に伴う用地確保の緊急性や困難性といった事情について十分に考慮することなく,当該契約において鑑定評価を経ずに定められた賃料額が私的鑑定において適正とされた賃料額と比較して高額で…
事件番号: 平成21(行ヒ)401 / 裁判年月日: 平成23年7月14日 / 結論: 破棄自判
介護保険法上の指定居宅サービス事業者及び指定居宅介護支援事業者の各指定を府知事から受けた事業者は,不正の手段によってこれらを受けた場合であっても,そのことを理由とする各指定の取消しがされておらず,各指定を受けるに当たっての経緯も各指定を無効とするほどの瑕疵の存在をうかがわせるものではないなど判示の事情の下においては,市…