実母及び実子2名を殺害し,その保険金等を詐取したとして起訴された事案につき,被告人の自白の信用性を否定するなどして無罪とした第1審判決を維持した原判決が是認された事例
刑法108条,刑法199条,刑訴法411条3号
判旨
被告人の自白の信用性を判断する際、自白を補強する状況証拠や捜査官以外の者に対する告白等の事情が認められる場合であっても、犯行動機の形成過程や犯行態様(灯油の飛散等)に客観的証拠と相容れない不自然・不合理な点があるときは、自白の信用性を否定し無罪とした原判断を不合理とはいえない。
問題の所在(論点)
被告人の自白、及び捜査官以外の者(実妹等)に対する犯行の告白がある場合において、自白内容に経験則上の不自然な点が含まれるとき、なお「合理的疑いを超える証明」があるといえるか。
規範
自白の信用性は、自白の内容が客観的事実と合致するか(客観的相当性)、自白に至る経緯や動機に不自然さがないか(供述の任意性・一貫性)、及び犯人しか知り得ない秘密の暴露があるか等を総合して判断する。特に、捜査官以外の者に対する告白等は、捜査官の影響下にあるか、言動の多義性、被告人の心身状態を慎重に検討し、信用性を高める要素となり得るが、自白内容自体に論理則・経験則に反する不自然な点がある場合には、全体として「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従い、合理的疑いを超える証明がなされたとはいえない。
重要事実
被告人が、借金返済のため実母を殺害し火災を装って保険金を詐取したとして、殺人、現住建造物等放火、詐欺等で起訴された。被告人は捜査段階で自白し、実妹に対しても犯行を認める言動をしていた。客観的事実として、死因や出火状況は自白と符合していた。しかし、被告人が主張する動機(保険金目的)に関し、保険内容を具体的に知ろうとしていなかった点や、動機形成過程の変遷(自殺願望から保険金目的への飛躍)が不自然であった。また、大量の灯油を撒布したとされる自白に対し、被告人の着衣や車両から灯油成分や臭いが一切検出されなかった。
事件番号: 平成19(あ)80 / 裁判年月日: 平成22年4月27日 / 結論: 破棄差戻
殺人,現住建造物等放火の公訴事実について,間接事実を総合して被告人が犯人であるとした第1審判決及びその事実認定を是認した原判決は,認定された間接事実中に被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとは認められないなど,間接事実に関する審…
あてはめ
まず、自白は客観的証拠と符合し、実妹への告白等も信用性を高める事情として相当に重視されるべきである。しかし、規範に照らせば以下の不自然さが残る。第一に、保険金取得を目的としながら保険契約の内容に無関心である点は、実母を殺害し親族を巻き添えにするという重大な決断をする者の心理として不自然である。第二に、狭い室内で約5.5リットルの灯油を撒布しながら、数時間後の取調べで身体や車内から灯油の痕跡が全く発見されないのは、再現実験等の結果に照らしても経験則上極めて不自然である。これらの不自然さは、自白を補強する諸事情を考慮してもなお、自白の核心部分に看過できない疑いを生じさせるものである。
結論
被告人の自白の信用性を否定し、犯罪の証明がないとして無罪とした第一審及び原審の判断は、論理則・経験則に照らして不合理とはいえず、是認される。上告棄却(無罪確定)。
実務上の射程
自白の信用性が争われる事案において、検察側が「秘密の暴露」や「親族への告白」を強調しても、犯行態様の物理的不自然さ(痕跡の欠如)や動機の不合理さを突くことで、合理的疑いを生じさせ得ることの指針となる。事実認定において「余地がある」という程度の推測では足りず、確実な証拠に基づく論理性が求められることを示した。
事件番号: 平成26(あ)639 / 裁判年月日: 平成29年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が犯人であることの証明が間接事実のみによる場合であっても、(1)被害者との近接した接触、(2)犯行道具の事前入手、(3)自殺・事故死の可能性の排除、(4)殺害の動機等の各間接事実を総合考慮し、被告人が犯人であることについて合理的な疑いを差し挟む余地がない程度の証明がなされていると判断される場…
事件番号: 昭和52(あ)1348 / 裁判年月日: 昭和55年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張は、刑事訴訟法405条所定の上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人側が、原判決には事実の誤認、単なる法令の違反、および量刑が不当である旨を主張して上告を申し立てた事案である。 第2 問題の所在(論点):事実誤認、単なる法令違反、または量刑不当を理…
事件番号: 平成17(あ)378 / 裁判年月日: 平成18年11月7日 / 結論: 棄却
刑訴法328条により許容される証拠は,信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が,同人の供述書,供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。),同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られる。