労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである。
労働契約上の安全配慮義務違反による損害と弁護士費用
民法415条,民法416条,労働契約法5条
判旨
労働者が、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内で、当該義務違反と相当因果関係に立つ損害といえる。
問題の所在(論点)
労働者が使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合、その弁護士費用は当該債務不履行と相当因果関係にある損害(民法416条)といえるか。
規範
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求において、労働者は義務の内容を特定し、かつ義務違反の事実を主張立証する責任を負い、その内容は不法行為の場合と殆ど変わらない。したがって、本請求権は弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動が困難な類型に属するといえる。ゆえに、訴訟提起を余儀なくされ弁護士に委任したときは、事案の難易、請求額、認容額等の諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲の費用は、相当因果関係にある損害に含まれる。
重要事実
労働者である上告人は、使用者の工場でプレス機を操作中に両手指を失う事故に遭った。被上告人(使用者)は、安全装置の設置や具体的注意を与えるべき義務を怠り、本件事故が発生した(安全配慮義務違反の認定)。上告人は、弁護士に委任して本件訴えを提起し、債務不履行に基づく損害賠償として約5913万円(うち弁護士費用530万円)を請求した。原審は、1876万円余の賠償を認めたが、弁護士費用については債務不履行構成であることを理由に全額棄却した。
あてはめ
本件では、使用者の安全配慮義務違反(安全装置の不設置・注意義務懈怠)が認められ、上告人はその主張立証のために弁護士への委任を余儀なくされている。このような安全配慮義務違反に基づく請求は、不法行為と同様の主張立証責任が課されるため、専門家への依頼が不可欠な類型といえる。したがって、不法行為の場合と別異に解する理由はなく、裁判所が認容した本体損害額や事案の難易度を考慮した「相当な額」については、本件安全配慮義務違反から生じた損害といえる。
結論
弁護士費用についても相当因果関係を肯定できるため、原審がこれを棄却した判断には法令違反がある。相当な範囲の額を審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
債務不履行構成であっても、安全配慮義務違反のように実質的に不法行為と同様の主張立証を要する事案においては、不法行為の判例(最判昭44.2.27)と同様に、相当額の弁護士費用を損害として計上できることを示した。実務上、労災事故等の請求において構成によらず弁護士費用を認める基準を確立した。
事件番号: 昭和44(オ)556 / 裁判年月日: 昭和45年7月14日 / 結論: その他
物件を騙取された者が、これによつて被つた損害の賠償を求めて訴を提起するのやむなきにいたり、弁護士に訴訟委任をし、その手数料の支払を約したときは、右手数料もまた該不法行為によつて生じた損害として、その相当と認められる限度で賠償を請求することができる。