判旨
債務不履行によって精神的苦痛が生じた場合、その損害が特別の事情によって生じたものであっても、債務者がその事情を予見し得たときは、精神上の損害(慰謝料)を賠償すべきである。
問題の所在(論点)
債務不履行を原因として、財産上の損害以外に精神上の損害(慰謝料)を請求することができるか。また、その場合の要件は何か。
規範
債務不履行に基づく損害賠償において、債務者が債務不履行により債権者に精神的苦痛が生じることを当然に予見し得たといえる場合には、財産的損害のみならず、精神上の損害(慰謝料)も賠償の範囲に含まれる(民法416条2項参照)。
重要事実
上告人(合名会社)は、被上告人に対し、特定の土地に家屋を建築して賃貸する契約を締結したが、これを履行しなかった。被上告人はこの不履行により営業所が不安定な状態に置かれ、精神的な苦痛を被ったとして、財産的損害とは別に慰謝料5万円を求めて提訴した。
あてはめ
本件において、上告人の契約不履行により被上告人の営業所が不安定になった事実は、被上告人に精神的な苦痛を与えるものである。このような事態は、契約の内容や性質に照らせば、債務者である上告人において当然に予見し得たものと認められる。したがって、財産的損害の賠償のみでは慰謝されない精神的苦痛に対し、5万円の慰謝料を認めるのが相当である。
結論
債務不履行により生じた精神的損害についても、債務者がその発生を予見し得た場合には、慰謝料請求が認められる。
実務上の射程
通常、債務不履行では財産的損害の補填で精神的苦痛も癒やされる(慰謝料不要)とされるが、本判決は、財産的損害の賠償のみでは不十分な特別の事情があり、かつ予見可能性が認められる場合に慰謝料請求が可能であることを示している。司法試験では損害の範囲(416条)の論点として、居住用建物の賃貸借不履行など、精神的利益が契約の目的と密接に関わる事案で活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)659 / 裁判年月日: 昭和35年3月10日 / 結論: 棄却
鑑定に理由が示されていなくても、これを事実認定の資料に供することは違法でない。