1 公立養護学校の教員が,同校の記念式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に停職処分を受けた場合において,上記職務命令が生徒等への配慮を含め教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであり,上記不起立が当該式典における教員による職務命令違反として式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし式典に参列する生徒への影響も伴うものであったとしても,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,上記停職処分は,停職期間の長短にかかわらず,裁量権の範囲を超えるものとして違法である。 (1) 上記不起立は,当該教員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであった。 (2) 処分の加重の理由とされた過去の懲戒処分の対象は,いずれも上記と同様の不起立であって,積極的に式典の進行を妨害する内容の非違行為は含まれておらず,いまだ過去2年度の3回の卒業式等に係るものにとどまり,今回の不起立の前後における態度において特に処分の加重を根拠付けるべき事情もうかがわれない。 (3) 上記方針の下に,上記教育委員会の通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに不起立を理由とする懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこととなる状況にあった。 2 公立中学校の教員が,卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に3月の停職処分を受けた場合において,上記不起立が当該教員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであったとしても,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,上記停職処分は,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえない。 (1) 上記職務命令は,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであった。 (2) 上記不起立は,当該式典における教員による職務命令違反として,式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし,式典に参列する生徒への影響も伴うものであった。 (3) 処分の加重の理由とされた過去の懲戒処分等は,卒業式における校長による国旗の掲揚の妨害と引き降ろしなど積極的に式典や研修の進行を妨害する行為に係る処分2回及び不起立に係る処分2回を含む懲戒処分5回,国旗や国歌に係る対応につき校長を批判する内容の文書の生徒への配布等に係る文書訓告2回であった。 (1につき補足意見及び意見,2につき補足意見及び反対意見がある。)
1 公立養護学校の教員が同校の記念式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする停職処分が,裁量権の範囲を超えるものとして違法であるとされた事例 2 公立中学校の教員が卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする停職処分が,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえないとされた事例
(1,2につき)憲法15条2項,地方公務員法29条1項,地方公務員法30条,地方公務員法32条,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)18条2号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)28条3項,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)36条1号,国旗及び国歌に関する法律1条1項,国旗及び国歌に関する法律2条1項 (1につき)学校教育法(平成18年法律第80号による改正前のもの)73条,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)42条1号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)43条,学校教育法施行規則(平成19年文部科学省令第5号による改正前のもの)73条の10,学校教育法施行規則(平成19年文部科学省令第40号による改正前のもの)57条の2,盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要領(平成11年文部省告示第62号。平成19年文部科学省告示第46号による改正前のもの)第4章,高等学校学習指導要領(平成11年文部省告示第58号。平成21年文部科学省告示第38号による特例の適用前のもの)第4章第2C(1),高等学校学習指導要領(平成11年文部省告示第58号。平成21年文部科学省告示第38号による特例の適用前のもの)第3の3 (2につき)学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)38条,学校教育法施行規則(平成19年文部科学省令第40号による改正前のもの)54条の2,中学校学習指導要領(平成10年文部省告示第176号。平成20年文部科学省告示第99号による特例の適用前のもの)第4章第2C(1),中学校学習指導要領(平成10年文部省告示第176号。平成20年文部科学省告示第99号による特例の適用前のもの)第3の3
事件番号: 平成23(行ツ)263等 / 裁判年月日: 平成24年1月16日 / 結論: その他
1 公立の高等学校又は養護学校の教職員が,卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったこと又は伴奏を拒否したことを理由に,教育委員会から戒告処分を受けた場合において,上記不起立又は伴奏拒否が当該教職員の歴史観ないし世…
判旨
公立学校の教職員が卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱義務を命ずる職務命令に違反したことを理由とする懲戒処分において、過去の処分歴のみを理由に直ちに停職処分を選択することは、特段の事情がない限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものとして違法となる。
問題の所在(論点)
1. 卒業式等における起立斉唱を命ずる職務命令の合憲性(憲法19条違反の有無)。 2. 不起立行為を理由とする停職処分が、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとして違法となるか(地方公務員法29条1項)。
規範
公務員に対する懲戒処分の選択は懲戒権者の裁量に委ねられるが、それが社会観念上著しく妥当を欠く場合には裁量権の逸脱・濫用となる。特に、教職員の歴史観・世界観に由来する消極的な不起立行為に対し、戒告・減給を超えて停職処分を選択するには、単に過去数回の同種処分歴があるだけでは足りない。停職は身分や給与に重大な不利益を及ぼす過酷な処分であるため、過去の処分歴に係る非違行為が規律秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど、処分の相当性を基礎付ける具体的な事情が必要である。
重要事実
東京都の公立学校教員であった上告人X1及びX2は、卒業式等において校長の起立斉唱命令に従わなかったため、都教委から停職処分を受けた。X2は過去2年度に3回の不起立による戒告・減給処分歴があった。X1は過去に不起立による処分歴のほか、国旗掲揚の妨害、国旗引き降ろし、研修進行の妨害といった積極的な妨害行為による複数の懲戒処分や訓告を受けていた。都教委は処分量定の加重方針に基づき、両名に停職処分を科した。
あてはめ
1. 職務命令は、教育上の行事にふさわしい秩序確保や円滑な進行を図るものであり、憲法19条に違反しない。 2. 裁量権の検討: (1)X2について:不起立行為は個人の歴史観等に由来し、積極的な式典妨害を伴わない。過去2年度3回の不起立という処分歴のみでは、重大な不利益を伴う停職処分を正当化する「具体的な事情」として不十分である。したがって、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の逸脱・濫用にあたる。 (2)X1について:過去の処分歴には、国旗の引き降ろしや研修の妨害といった「規律や秩序を害する程度の大きい積極的な妨害行為」が含まれる。これら一連の非違行為の内容・頻度に鑑みれば、停職処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められ、裁量権の範囲内といえる。
結論
1. X2に対する停職処分は裁量権の逸脱・濫用として取り消される。 2. X1に対する停職処分は適法であり、上告を棄却する。
実務上の射程
消極的な思想信条の表出にとどまる不起立行為に対し、機械的な累積加重によって停職等の重い処分を課す運用の是正を求めた。一方で、式典の物理的妨害などを伴う場合には、重い処分の維持を認めている。
事件番号: 平成22(行ツ)314 / 裁判年月日: 平成23年6月14日 / 結論: その他
公立中学校の校長が教諭に対し卒業式又は入学式において国旗掲揚の下で国歌斉唱の際に起立して斉唱することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立斉唱行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な…
事件番号: 平成22(行ツ)372 / 裁判年月日: 平成23年6月21日 / 結論: 棄却
公立高等学校等の校長が教職員に対し卒業式又は入学式において国旗掲揚の下で国歌斉唱の際に起立することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教職員の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作…
事件番号: 平成22(行ツ)54 / 裁判年月日: 平成23年5月30日 / 結論: 棄却
公立高等学校の校長が教諭に対し卒業式における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立斉唱行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作…
事件番号: 平成23(行ツ)177等 / 裁判年月日: 平成24年2月9日 / 結論: 棄却
1 処分の差止めの訴えについて行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには,処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止…