公立高等学校等の校長が教職員に対し卒業式又は入学式において国旗掲揚の下で国歌斉唱の際に起立することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教職員の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであり,我が国において「日の丸」や「君が代」が戦前の軍国主義や皇国史観等との関係で果たした役割に関わる当該教職員の歴史観ないし世界観を否定することと不可分に結び付くものではなく,上記職務命令は,直ちにその歴史観ないし世界観それ自体を否定するものとはいえない。 (2) 上記の起立行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作として外部からも認識されるものであって,特定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難であり,上記職務命令は,当該教職員に特定の思想を持つことを強制したり,これに反する思想を持つことを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものともいえない。 (3) 上記の起立行為は,国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であり,上記(1)の歴史観ないし世界観を有する者がこれを求められることはその歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行動を求められることとなる面があるところ,他方,上記職務命令は,高等学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものである。 (補足意見及び反対意見がある。)
公立高等学校等の校長が教職員に対し卒業式又は入学式において国旗掲揚の下で国歌斉唱の際に起立することを命じた職務命令が憲法19条に違反しないとされた事例
憲法15条2項,憲法19条,地方公務員法30条,地方公務員法32条,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)18条2号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)28条3項,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)36条1号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)42条1号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)51条,学校教育法(平成18年法律第80号による改正前のもの)76条,国旗及び国歌に関する法律1条1項,国旗及び国歌に関する法律2条1項,高等学校学習指導要領(平成11年文部省告示第58号。平成21年文部科学省告示第38号による特例の適用前のもの)第4章第2C(1),高等学校学習指導要領(平成11年文部省告示第58号。平成21年文部科学省告示第38号による特例の適用前のもの)第4章第3の3,「盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要領」(平成11年文部省告示第62号。平成19年文部科学省告示第46号による改正前のもの)第4章
判旨
公立学校の教職員に対し、入学式等の式典において国歌斉唱の際に起立し斉唱することを命ずる校長の職務命令は、憲法19条に違反しない。
問題の所在(論点)
校長が教職員に対し、入学式・卒業式等の式典において「国歌斉唱の際に起立し斉唱すること」を命ずる職務命令が、憲法19条に違反するか(間接的な制約の許容性)。
事件番号: 平成22(行ツ)314 / 裁判年月日: 平成23年6月14日 / 結論: その他
公立中学校の校長が教諭に対し卒業式又は入学式において国旗掲揚の下で国歌斉唱の際に起立して斉唱することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立斉唱行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な…
規範
特定の対象につき特定の行為を求める職務命令が、個人の歴史観、世界観等に由来する思想及び良心の自由を間接的に制約する場合、その制限が許容されるか否かは、当該職務命令の目的、内容、それによってもたらされる制約の程度等を総合的に考慮し、当該職務命令に制限を正当化するに足りる必要性及び合理性が認められるかによって判断すべきである。
重要事実
公立高等学校の校長が、教職員に対し、卒業式等の式典の国歌斉唱時において、国旗に向かって起立し斉唱することを命じた(本件職務命令)。これに対し、特定の歴史観・世界観に基づき起立斉唱を拒否する信念を持つ教職員らが、本件職務命令は思想及び良心の自由を保障する憲法19条に違反すると主張した。なお、学習指導要領には、入学式や卒業式において国旗を掲揚し国歌を斉唱するよう指導することが定められていた。
あてはめ
まず、本件命令は、特定の思想を持つことを強制したり禁止したりするものではなく、起立斉唱という慣習上の礼儀的作法を伴う行為を命ずるものにすぎない。もっとも、自己の歴史観等と相容れない行為を求められる点で、心理的苦痛を感じるという面では間接的な制約となり得る。しかし、式典の円滑な進行や学校教育の公共的目的、学習指導要領の趣旨に照らせば、命令の目的には合理性がある。教職員は地方公務員法等の法令に従う義務を負う立場にあり、起立斉唱を求めることは、特定の思想の表明を強制するものでも、個人の内心的価値を否定するものでもない。したがって、本件命令による制約は、必要かつ合理的な範囲内であるといえる。
結論
本件職務命令は、教職員の思想及び良心の自由を直ちに制約するものではなく、間接的な制約を生じさせるとしても、必要性・合理性が認められるため、憲法19条に違反しない。
実務上の射程
本判決は職務命令自体の合憲性を認めたが、これに違反したことを理由とする懲戒処分の裁量権の逸脱・濫用については、別途、慎重な検討を要する(減給以上の重い処分については慎重な司法審査が及ぶ)点に留意が必要である。
事件番号: 平成16(行ツ)328 / 裁判年月日: 平成19年2月27日 / 結論: 棄却
市立小学校の校長が職務命令として音楽専科の教諭に対し入学式における国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うよう命じた場合において,(1)上記職務命令は「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる同教諭の歴史観ないし世界観自体を直ちに否定するものとは認められないこと,(2)入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピア…
事件番号: 平成23(行ツ)263等 / 裁判年月日: 平成24年1月16日 / 結論: その他
1 公立の高等学校又は養護学校の教職員が,卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったこと又は伴奏を拒否したことを理由に,教育委員会から戒告処分を受けた場合において,上記不起立又は伴奏拒否が当該教職員の歴史観ないし世…
事件番号: 平成22(行ツ)54 / 裁判年月日: 平成23年5月30日 / 結論: 棄却
公立高等学校の校長が教諭に対し卒業式における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立斉唱行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作…
事件番号: 平成23(行ツ)242等 / 裁判年月日: 平成24年1月16日 / 結論: その他
1 公立養護学校の教員が,同校の記念式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に停職処分を受けた場合において,上記職務命令が生徒等への配慮を…