市立小学校の校長が職務命令として音楽専科の教諭に対し入学式における国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うよう命じた場合において,(1)上記職務命令は「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる同教諭の歴史観ないし世界観自体を直ちに否定するものとは認められないこと,(2)入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をする行為は,音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであり,当該教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難であって,前記職務命令は前記教諭に対し特定の思想を持つことを強制したりこれを禁止したりするものではないこと,(3)前記教諭は地方公務員として法令等や上司の職務上の命令に従わなければならない立場にあり,前記職務命令は,小学校教育の目標や入学式等の意義,在り方を定めた関係諸規定の趣旨にかなうものであるなど,その目的及び内容が不合理であるとはいえないことなど判示の事情の下では,前記職務命令は,前記教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (補足意見及び反対意見がある。)
市立小学校の校長が音楽専科の教諭に対し入学式における国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うよう命じた職務命令が憲法19条に違反しないとされた事例
憲法15条2項,憲法19条,地方公務員法30条,地方公務員法32条,学校教育法18条2号,旧小学校学習指導要領(平成元年文部省告示第24号。平成10年文部省告示第175号による改正前のもの)第4章第2D(1),旧小学校学習指導要領(平成元年文部省告示第24号。平成10年文部省告示第175号による改正前のもの)第4章第3の3
判旨
公立小学校の入学式等における「君が代」のピアノ伴奏命令は、特定の思想を持つことや告白することを強要するものではなく、職務の公共性や行事の趣旨に照らし合理的であり、憲法19条に違反しない。
問題の所在(論点)
入学式での「君が代」ピアノ伴奏を命じる職務命令は、教諭の歴史観や世界観に基づく行為の拒否を制約するものとして、憲法19条に違反するか。
規範
職務命令が思想・良心の自由(憲法19条)に反するかは、命令の内容が特定の思想を強制し、あるいは禁止し、特定の思想の有無について告白を強要するものといえるか、また、命令の目的および内容が公務員の地位の特殊性や職務の公共性に照らし不合理でないかによって判断される。
事件番号: 平成22(行ツ)372 / 裁判年月日: 平成23年6月21日 / 結論: 棄却
公立高等学校等の校長が教職員に対し卒業式又は入学式において国旗掲揚の下で国歌斉唱の際に起立することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教職員の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作…
重要事実
市立小学校の音楽専科教諭であるXは、入学式での「君が代」斉唱の際、校長からピアノ伴奏を命じられた(本件職務命令)。Xは、自身の歴史観・世界観に基づき、アジア侵略と結び付く「君が代」の伴奏はできないとしてこれを拒否した。校長は録音テープで対応したが、後にXは命令違反を理由に戒告処分を受けたため、命令の違憲性を主張して処分の取消しを求めた。
あてはめ
まず、ピアノ伴奏の拒否はXの歴史観に基づく選択ではあるが、伴奏命令自体が直ちにその歴史観を否定するものではない。また、伴奏行為は音楽教諭に通常期待されるもので、特定の思想の外部表明や告白強要と評価することは困難である。さらに、公務員は全体の奉仕者(憲法15条2項)として法令等に従う義務(地公法30条、32条)を負う。学習指導要領上、入学式での国歌斉唱指導は定められており、従来から伴奏が行われていた経緯に照らせば、式典を円滑に進めるための本件命令は目的・内容において合理的である。
結論
本件職務命令は、Xの思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に反するとはいえず、これに違反したことによる戒告処分は適法である。
実務上の射程
本判決は、内心の自由が外部的行動と結びつく場合、その制約が直ちに違憲とはならず、職務の公共性や合理的目的との比較衡量で決せられることを示した。答案上は、命令が「特定の思想の強制・禁止・告白」に当たらないことを検討した上で、目的の正当性と手段の合理性を論じる枠組みとして活用できる。
事件番号: 平成22(行ツ)314 / 裁判年月日: 平成23年6月14日 / 結論: その他
公立中学校の校長が教諭に対し卒業式又は入学式において国旗掲揚の下で国歌斉唱の際に起立して斉唱することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立斉唱行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な…
事件番号: 平成23(行ツ)263等 / 裁判年月日: 平成24年1月16日 / 結論: その他
1 公立の高等学校又は養護学校の教職員が,卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったこと又は伴奏を拒否したことを理由に,教育委員会から戒告処分を受けた場合において,上記不起立又は伴奏拒否が当該教職員の歴史観ないし世…
事件番号: 平成22(行ツ)54 / 裁判年月日: 平成23年5月30日 / 結論: 棄却
公立高等学校の校長が教諭に対し卒業式における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立斉唱行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作…