1 注文者と請負人が建築基準法等の法令の規定に適合しない建物の建築を目的とする請負契約を締結した場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,上記請負契約は,公序良俗に反し,無効である。 (1) 上記請負契約は,建築基準法所定の確認及び検査を潜脱するため,法令の規定に適合した建物の建築確認申請用図面のほかに,法令の規定に適合しない建物の建築工事の施工用図面を用意し,前者の図面を用いて建築確認申請をして確認済証の交付を受け,一旦は法令の規定に適合した建物を建築して検査済証の交付も受けた後に,後者の図面に基づき建築工事を施工することを計画して締結されたものである。 (2) 上記建物は,上記(1)の計画どおり建築されれば,耐火構造に関する規制違反や避難通路の幅員制限違反など,居住者や近隣住民の生命,身体等の安全に関わる違法を有する危険な建物となるものであった。 (3) 請負人は,建築工事請負等を業とする者でありながら,上記(1)の計画を全て了承し,上記請負契約の締結に及んだのであり,請負人が上記建物の建築という注文者からの依頼を拒絶することが困難であったというような事情もうかがわれない。 2 建築基準法等の法令の規定に適合しない建物の建築を目的とする公序良俗違反の請負契約に基づく本工事の施工が開始された後に施工された追加変更工事は,同工事が区役所の是正指示や近隣住民からの苦情など様々な事情を受けて別途合意の上施工されたものであり,その中には上記本工事の施工によって既に生じていた違法建築部分を是正する工事も含まれていたという事情の下では,上記追加変更工事の中に上記本工事で計画されていた違法建築部分につきその違法を是正することなくこれを一部変更する部分があるのであれば,その部分は別の評価を受けることになるが,そうでなければ,その施工の合意が公序良俗に反するものということはできない。
1 建築基準法等の法令の規定に適合しない建物の建築を目的とする請負契約が公序良俗に反し無効とされた事例 2 建築基準法等の法令の規定に適合しない建物の建築を目的とする公序良俗違反の請負契約に基づく本工事の施工が開始された後に施工された追加変更工事の施工の合意が公序良俗に反しないとされた事例
(1,2につき)民法90条,民法632条
判旨
建築基準法等の法令を潜脱して重大な違法を有する建物を建築する請負契約は、公序良俗(民法90条)に反し無効であるが、その後に生じた違法状態を是正するための工事については、別途反社会性の強い行為といえない限り、公序良俗に反し無効とはならない。
問題の所在(論点)
建築基準法等の法令に違反する建物の建築を目的とする請負契約、およびその施工過程で必要となった是正工事(追加変更工事)の合意が、民法90条の公序良俗に反し無効となるか。
事件番号: 昭和53(オ)924 / 裁判年月日: 昭和54年2月2日 / 結論: 棄却
請負契約における仕事の目的物の瑕疵につき、注文者が請負人に対し、あらかじめ修補の請求をすることなく直ちに修補に代わる損害賠償の請求をした場合には、右請求の時を基準として賠償額を算定すべきである。
規範
1. 法令を潜脱して違法建物を建築する計画が、その手法において大胆かつ極めて悪質であり、かつ建物の違法性が居住者や近隣住民の安全に関わる重大なものである場合、当該建築を目的とする請負契約は、著しく反社会性の強い行為として公序良俗に反し無効となる。 2. もっとも、工事過程で法令遵守の必要性や苦情対応から別途合意された是正工事等は、当初の違法な計画を継続・変更するものでない限り、当然に反社会性の強い行為とはいえず、公序良俗に反するものとはいえない。
重要事実
注文者B・被上告人と請負人Xは、採算確保のため建築確認・検査後に実施図面通りに改築する潜脱計画を立て、建築基準法(耐火構造、斜線制限、容積率等)に著しく違反する建物の請負契約(本件各契約)を締結した。Xはプロの業者としてこれを了承していた。施工中、区役所の是正指示や近隣住民の苦情を受け、Xは違法部分の是正を含む追加変更工事を施工した。Xの破産管財人である上告人が、未払代金を請求した。
あてはめ
1. 本件各契約について:確認済証・検査済証を詐取する計画は極めて悪質である。また、耐火構造や避難通路の制限違反は生命・身体の安全に関わる重大な違法であり、事後是正も困難である。Xは業者としてこれに積極的に加担しており、従属的立場ともいえない。したがって、本件建築は著しく反社会性が強く、契約は無効である。 2. 追加変更工事について:本工事により生じた違法部分を是正する工事等は、本工事(違法建築)の一環とはいえず、別個の評価を要する。是正により適法性を回復させる性質の工事であれば、反社会性の強い行為とはいえず、公序良俗に反しない。
結論
本件各契約に基づく本工事代金の請求は棄却されるべきであるが、追加変更工事(是正工事等)については、その内容が違法を継続するものでない限り有効であり、代金請求が認められる余地がある。よって、追加工事部分についてさらに審理させるため原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
潜脱の意図が明白で、かつ生命・安全に関わる重大な法令違反を目的とする請負契約の効力を否定する一方、その後の「適法化」に向けた合意については契約の有効性を認め、請負人の報酬請求権を保護した。
事件番号: 平成16(受)519 / 裁判年月日: 平成18年4月14日 / 結論: 破棄自判
本訴及び反訴が係属中に,反訴原告が,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,異なる意思表示をしない限り,反訴を,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして,許される。
事件番号: 昭和59(オ)543 / 裁判年月日: 昭和60年5月17日 / 結論: その他
請負契約が請負人の責に帰すべき事由により中途で終了した場合において、残工事の施工に要した費用として、注文者が請負人に賠償を請求することができるのは、右費用のうち、未施工部分に相当する請負代金額を超える部分に限られる。
事件番号: 平成30(受)2064 / 裁判年月日: 令和2年9月11日 / 結論: 破棄自判
請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし,他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に,本訴原告が,反訴において,上記本訴請求債権を自働債権とし,上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。