無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。
無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合における当該物の所有者の追認の効果
民法116条,民法560条
判旨
無権利者による物の販売委託契約を所有者が追認しても、契約当事者の地位の移転や債権債務の帰属は認められない。民法116条の類推適用による契約効果の直接的帰属を否定し、受託者の不利益保護を重視した判断である。
問題の所在(論点)
他人の物を無断で処分(販売委託)した無権利者の行為を所有者が追認した場合、民法116条の類推適用等により、所有者が直接、受託者に対して契約上の代金引渡請求権を取得するか。
規範
無権利者が締結した物の販売委託契約を、事後的に物の所有者が追認したとしても、当該契約に基づく債権債務が所有者に帰属する(所有者が契約当事者の地位を取得する)と解することはできない。契約は依然として無権利者と受託者との間に有効に存続し、追認のみを理由として契約上の地位を移転させる法的根拠はない。また、これを認めると受託者が無権利者に対して有していた抗弁を主張できなくなる等、受託者に不測の不利益を与えるため、民法116条の類推適用は否定される。
重要事実
工場を実力占拠した無権利者Aが、本来の所有者である被上告人のブナシメジを、受託者である上告人との間で締結した販売委託契約に基づき出荷・販売させた。上告人は第三者に販売して代金を受領したが、その後、被上告人が上告人に対し、自己と上告人との間に契約上の債権債務を発生させる趣旨で当該販売委託契約を追認し、販売代金の引渡しを求めて提訴した。
あてはめ
本件において、販売委託契約は無権利者Aと受託者である上告人との間で有効に成立している。被上告人(所有者)が追認したとしても、その一事をもって契約当事者の地位が当然に被上告人に移転し、債権債務が帰属すると解する理由はない。仮に被上告人への帰属を認めれば、上告人が本来の契約相手方であるAに対して主張できたはずの抗弁(相殺や同時履行等)を被上告人に対し主張できなくなる恐れがあり、受託者である上告人に不当な不利益を強いる結果となる。
結論
被上告人の追認によって販売代金の引渡請求権が被上告人に帰属することはない。したがって、被上告人の請求は認められない。
実務上の射程
無権代理(113条等)とは異なり、無権利者の処分行為の追認において「契約上の地位の承継」を認めることには慎重な姿勢を示した。答案上、物権的請求権や不当利得返還請求権(121条、703条等)ではなく、あえて「契約上の請求」を構成しようとする場合の限界を画する判例として機能する。第三者の保護(抗弁の接続)を重視する論理は、債権譲渡等の類推場面でも参考になる。
事件番号: 昭和31(オ)893 / 裁判年月日: 昭和32年11月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が売買契約の成立を主張している場合、裁判所がその代理人によって契約が締結されたと認定しても、処分権主義(民訴法246条)には反しない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)との間に売買契約が成立したと主張して訴えを提起した。これに対し、原審(控訴審)は、当該売買契約が被上告人…