代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知りうべきであつた場合にかぎり、民法第九三条但書の規定を類推適用して、本人はその行為についての責に任じないと解するのが相当である。
代理人の権限濫用の行為と民法第九三条
民法93条,民法99条
判旨
代理人が自己または第三者の利益を目的として代理権限内の行為をした場合、相手方がその意図を知り、または知ることができたときは、民法93条1項ただし書を類推適用して、その行為は本人に対して効力を生じない。また、このような権限濫用行為は、相手方が悪意であれば民法715条1項の「事業の執行につき」なされたものとは認められず、使用者は損害賠償責任を負わない。
問題の所在(論点)
1. 代理人が権限を濫用して自己の利益のために行為した場合に、本人は契約上の責任を負うか(代理権濫用の法的性質と効力)。2. 相手方が代理人の権限濫用につき悪意である場合、その行為は民法715条1項にいう「事業の執行につき」なされたものといえるか。
規範
1. 代理人が自己または第三者の利益を図る目的で権限内の行為を行った場合(権限濫用)、相手方がその意図を知り(悪意)、または知ることができた(有過失)ときは、民法93条1項ただし書(現行法107条の趣旨)を類推適用し、本人はその行為につき責を負わない。2. 使用者責任(民法715条1項)における「事業の執行につき」とは、行為の外形から職務範囲内と見られる場合を含む。しかし、取引行為において相手方が被用者の権限濫用を知っていた場合には、外形に対する信頼保護の趣旨を欠くため、「事業の執行につき」なされたものとは認められない。
重要事実
被上告会社(被告・本人)の製菓原料店主任であるEは、自己らの利益を図る目的で主任の権限を濫用し、被上告会社名義で上告会社(原告・相手方)と製菓原料の売買取引を行った。上告会社の支配人Dは、Eが職務としてではなく自己の利益のために本件取引を行っている事実を知りながら(悪意)、これに応じて売買契約を締結した。その後、上告会社は被上告会社に対し、当該契約に基づく代金支払、またはEの行為による損害賠償(使用者責任)を求めて提訴した。
あてはめ
1. 本件において、主任Eは形式的には仕入れ権限を有していたが、主観的には自己の利益を図る目的で取引を行っており、権限を濫用している。相手方である上告会社の支配人Dは、このEの意図を認識していた。したがって、民法93条1項ただし書の類推適用により、本件契約の効力は本人である被上告会社に及ばない。2. 使用者責任について、民法715条1項が「事業の執行につき」を広く解するのは取引の安全(外形への信頼)を保護するためである。本件ではDがEの権限濫用につき悪意であった以上、保護すべき信頼が存在しない。ゆえに、Eの行為は「事業の執行につき」なされたものとはいえず、被上告会社は賠償責任を負わない。
結論
被上告会社は、本件売買契約に基づく代金支払義務を負わず、また使用者としての損害賠償責任も負わない。
実務上の射程
代理権濫用については、現行民法107条が本判例の準則を明文化したため、現在は同条を直接適用する。一方で、使用者責任における「事業の執行につき」の判断において、相手方の悪意・重過失を理由に適用を否定する枠組みは現在も維持されており、外形標準説の限界を示す規範として重要である。
事件番号: 昭和35(オ)414 / 裁判年月日: 昭和36年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自己の営業上の名称(商号)の使用を他人に許諾した者は、当該他人を営業主であると誤信して取引をした相手方に対し、連帯して弁済する責任を負う(商法9条、旧商法23条)。 第1 事案の概要:上告人(被告)は、訴外Dに対し、自己の営業上の名称である「E製材」という営業名を使用して営業を行うことを許諾した。…