一般に官庁の部局をあらわす文字である「部」と名付けられ、裁判所庁舎の一部を使用し、現職の職員が事務を執つていた「東京地方裁判所厚生部」は、東京地方裁判所の一部局としての表示力を有するものと認めるべきであり、東京地方裁判所当局が同部の事業の継続処理を認めた以上、これにより同裁判所は、「厚生部」のする取引が自己の取引なるかのごとく見える外形を作り出したものというべく、善意無過失の相手方に対し、「厚生部」のした取引につき自ら責に任ずべきである。
「東京地方裁判所厚生部」のした取引と同裁判所の責任。
民法109条,商法23条
判旨
行政庁が、その職員に自己の部局に類似する名称の使用や施設の使用を許諾するなど、その部局による取引であるかのような外形を現出した場合、民法109条等の表見代理の法理が類推適用される。第三者がその外形を信頼して取引し、その信頼について善意無過失であるときは、当該行政庁は取引上の責任を負う。
問題の所在(論点)
行政庁(国家機関)の一部局にすぎないかのような外観を呈する組織が行った取引について、民法109条等の表見代理の法理を類推適用して、当該行政庁に責任を負わせることができるか。
規範
他人に自己の名称や商号等の使用を許し、あるいは取引権限がある旨を表示して、その他人の取引が自己の取引であるかのような外形を作り出した者は、この外形を信頼して取引した第三者に対し、民法109条、商法23条等の法理に照らし自ら責任を負うべきである。この理は、行政庁が行う経済活動の範囲においても、取引の安全と善意の第三者保護の観点から類推適用される。
重要事実
東京地方裁判所の福利厚生組織である「厚生部」は、同裁の事務局総務課厚生係の職員が兼務し、同係の部室を使用して活動していた。同裁は、「厚生部」という名称の使用や同部室での執務、及び職員による継続的業務を許容していた。さらに職員らは、裁判所の庁用紙や官庁類似の取引様式を用い、かつ東京地方裁判所の庁印を押捺して外部と取引を行っていた。原審は、官庁の権限は法令で定められ周知であるから表見代理は成立しないとしたが、最高裁へ上告された。
あてはめ
本件において東京地方裁判所は、「厚生部」が「東京地方裁判所厚生部」の名称で取引することを認め、現職職員に厚生係の部室を使用させていた。一般に「部」という名称は官庁の部局を指すと認識され、かつ厚生係という実在の部局と同一の場所・人員で運営されていた以上、一般人が「厚生部」を裁判所の一部局と認識するのは当然である。したがって、同裁は「厚生部」の取引が自己の取引であるかのような外形を作り出したといえる。相手方が善意無過失であれば、法令上の権限の有無にかかわらず、同裁はその責任を負うべきである。
結論
行政庁も、その経済活動の範囲においては表見代理の法理が類推適用され、外形を信頼した善意無過失の第三者に対して取引上の責任を負う。
実務上の射程
行政主体の取引責任が問われる場面で、私法上の表見代理規定(民法109条、110条等)を類推適用する際のリーディングケースである。特に、行政組織の名称や施設利用、職員による権限行使の外形が存在する場合に、取引の安全を重視して私法的構成を用いる答案作成に有効である。
事件番号: 昭和31(オ)485 / 裁判年月日: 昭和32年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の適用にあたっては、相手方が表見代理人と直接取引をした場合に限られず、表見代理人の意を受けた使者を介して取引した場合であっても、同条の適用が認められる。 第1 事案の概要:上告会社Dの事務所長Eは、部下である職員Fに対し、資金調達のために事務所名義で取引を行い、必要に応じて事務所の印章…