会社の係長のした売買契約の効力が会社に及ばないとされた事例
判旨
商法43条1項に規定する「ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」の代理権は、委任された範囲内に限られるため、その権限を欠く事項(出入商人の決定等)について行った行為は、たとえ日常的買付事務に付随するものであっても本人に帰属しない。
問題の所在(論点)
日常的な買付事務を委任された使用人が、その権限外である「取引相手の決定」を含む売買を行った場合、商法43条に基づき本人にその効力が及ぶか。
規範
商法43条1項(特定事項の委任を受けた使用人)にいう使用人に該当するか否か、およびその代理権の範囲は、本人から委任を受けた事務の内容によって定まる。代理権自体が付与されていない事項については、代理権に制限を加えたもの(同条2項)ではなく、そもそも無権代理の問題となる。
重要事実
被上告人(会社)の厚生課給食係長Dは、給食用食品の日常的な買付事務についてのみ代理権を有していた。しかし、本件の売買契約においては、出入商人(取引の相手方)を決定するという比較的重要な事項が含まれていた。この出入商人の決定権限は厚生課長に属しており、係長Dには付与されていなかったが、Dは厚生課長の承認を得ずに本件売買の承認を行った。
あてはめ
係長Dが委任を受けていたのは日常の買付事務のみであり、出入商人の決定等の重要事項については権限が付与されていなかった。これは代理権に対する内部的な「制限」(商法43条2項)ではなく、代理権自体の「範囲外」の事項である。したがって、日常の買付事務の前提となる出入商人の決定が適法になされていない以上、たとえ買付行為自体が日常的性質を有していたとしても、権限のない使用人の行為として、被上告人(会社)に売買の責任は生じない。
結論
本件各売買の効力は被上告人に及ばない。したがって、上告人らの請求を棄却した原判決は正当である。
実務上の射程
商法43条1項の「代理権」と2項の「制限」の区別を明確にする際に活用する。本人があらかじめ限定した特定の事務範囲(本件では日常買付)を超えた行為については、2項の善意の第三者保護の問題になる前に、1項の代理権の存否として処理すべきであることを示唆している。
事件番号: 昭和60(オ)1300 / 裁判年月日: 平成2年2月22日 / 結論: 棄却
商法四三条二項の準用する三八条三項にいう「善意の第三者」には、代理権に加えられた制限を知らなかつたことにつき過失のある第三者は含まれるが、重大な過失のある第三者は含まれない。