商法四三条二項の準用する三八条三項にいう「善意の第三者」には、代理権に加えられた制限を知らなかつたことにつき過失のある第三者は含まれるが、重大な過失のある第三者は含まれない。
商法四三条二項の準用する三八条三項にいう「善意の第三者」
商法38条3項,商法43条2項
判旨
商法25条1項(旧43条1項)の物品販売等に関する使用人は、客観的に特定の受任事項の範囲内にある一切の裁判外の行為を行う権限を有し、代理権の制限を知らなかった第三者が「重過失」でない限り、商権者はその行為の責任を負う。
問題の所在(論点)
商法25条1項(旧43条1項)に規定される「営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」の代理権の範囲と、同条2項にいう「善意の第三者」の意義が問題となる。
規範
1. 代理権の発生要件:商法25条1項(旧43条1項)に基づき代理権を主張する者は、①当該使用人が営業主から営業に関するある種類又は特定の事項の処理を委任されたこと、②当該行為が客観的にみて右事項の範囲内に属することを主張・立証すれば足り、具体的な代理権の授与(意思表示)までを立証する必要はない。 2. 代理権の制限:同条2項にいう「善意の第三者」には、制限を知らなかったことにつき過失がある者は含まれるが、重大な過失がある者は含まれない。取引の円滑・安全を保護する趣旨から、重過失なき限り善意として保護される。
重要事実
上告人の係長であるDは、洋装衣料品の売買取引に関する業務を担当していた。Dが行った取引について、上告人は代理権の制限を理由にその効力を争った。相手方(被上告人)の代理人であるFが、Dの代理権に加えられた制限を知らなかったことについて、重過失があったかどうかが争点となった。
あてはめ
1. 使用人の該当性:Dは上告人の係長として、担当業務である洋装衣料品の売買取引を処理していたことから、商法上の「ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」に該当する。 2. 客観的範囲:Dが行った売買取引は、その担当業務(洋装衣料品の売買)の範囲内に客観的に属する行為である。 3. 第三者の善意・無重過失:被上告人の代理人Fにおいて、Dの代理権に対する制限を知らなかったことにつき、判決文上の証拠関係に照らして「重大な過失」までは認められない。したがって、Fは「善意の第三者」として保護される。
結論
Dの行為は商法25条1項の包括的代理権の範囲内であり、相手方に重過失がない以上、代理権の制限を対抗できないため、被上告人の請求は認められる(上告棄却)。
実務上の射程
特定の事務担当者(係長等)が定型的な取引を行った場合、相手方は具体的な授権を立証せずとも、担当職務の範囲内であれば包括的代理権を主張できる。また、制限の対抗要件としての「善意」が「無重過失」まで拡張される点は、表見代理(民法110条等)との比較で重要である。
事件番号: 昭和39(オ)1025 / 裁判年月日: 昭和42年4月20日 / 結論: 棄却
代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知りうべきであつた場合にかぎり、民法第九三条但書の規定を類推適用して、本人はその行為についての責に任じないと解するのが相当である。