庶務課長の命を受けて同課長と共に所管事項につき支店長を補佐する事実上の行為をする権限を有するにすぎない会社支店の庶務係長は、商法第四二条にいう「営業ノ主任者タルコトヲ示スヘキ名称ヲ附シタル使用人」にはあたらない。
支店の庶務係長は商法第四二条にいう「営業ノ主任者タルコトヲ示スベキ名称ヲ附シタル使用人」か
商法42条
判旨
商法上の表見支配人の規定(旧商法42条、現行商法24条)は、支店長等に準ずる名称を付された使用人を支配人と同様の権限があるものとみなす規定であり、単なる「庶務係長」という名称は、営業の主任者であることを示す名称には当たらない。
問題の所在(論点)
「庶務係長」という名称が、商法24条(旧42条)にいう「支店の営業の主任者であることを示すべき名称」に該当するか。また、何ら代理権を有しない者に民法110条の表見代理が成立するか。
規範
商法24条(旧42条)の「支店の営業の主任者であることを示すべき名称」とは、支配人と同様の権限を有すると外部から認識される客観的な名称であることを要する。同条の趣旨は、営業主に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限(支配人権)があるかのような外観を信頼した第三者を保護する点にあるため、特定の内部部署の補助者に過ぎない名称はこれに含まれない。
重要事実
会社D支店の庶務係長Eは、会社を代理する権限がなかったにもかかわらず、代理権があるように装って上告人を欺き、本件契約を締結した。庶務係長の職務は、庶務課長の下で最終的に支店長の承認・指図を受けて行うものであり、支店長を補佐する内部組織上の職位にすぎなかった。上告人は、庶務係長という名称に基づき、商法上の表見支配人(旧42条)または民法上の表見代理の成立を主張した。
あてはめ
庶務係長という名称は、支店全体を統括する「支店長」やそれに準ずる名称とは異なり、支店内部の特定部門における一係の責任者を示すにすぎない。事実認定によれば、Eは支店長を補佐する内部組織上の便宜的な職位であり、会社を代理する客観的な権限の外観を備えていたとは認められない。また、Eは被上告会社のためのいかなる代理権も有していなかったため、基本代理権の存在を前提とする民法110条の適用を受ける余地もない。
結論
庶務係長は「営業の主任者であることを示すべき名称」を付された使用人には当たらず、商法上の表見支配人の規定は適用されない。また、基本代理権がない以上、民法110条の表見代理も成立しない。
実務上の射程
本判決は、商法24条の「名称」の範囲を、営業全体を包括的に代理する支配人と同視できる程度に高い独立性・広範な権限を示唆するものに限定している。答案上、課長・係長といった内部的・補助的名称については原則として同条の適用を否定する論拠として機能する。また、110条の適用において「いかなる代理権も有しない」場合には基本代理権を欠くため同条が適用されないという基本原則を確認する際にも有用である。
事件番号: 昭和32(オ)339 / 裁判年月日: 昭和33年12月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見支配人の規定(旧商法42条1項)が適用されるためには、相手方が当該代理権の欠如について善意であることを要する。相手方が代理権があると信じたことに過失がないこと(無過失)までを要件とするかは明示されていないが、善意の認定があれば足りるとしている。 第1 事案の概要:控訴人(被上告人)は、被控訴人…