判旨
表見支配人の規定(旧商法42条1項)が適用されるためには、相手方が当該代理権の欠如について善意であることを要する。相手方が代理権があると信じたことに過失がないこと(無過失)までを要件とするかは明示されていないが、善意の認定があれば足りるとしている。
問題の所在(論点)
旧商法42条1項(現在の商法24条、会社法13条に相当)に基づき、支配人に類似する名称を付した使用人の行為につき会社が責任を負うための、相手方の主観的要件(善意・無過失の要否)が問題となった。
規範
表見支配人の成立(旧商法42条1項、現行商法24条・会社法13条参照)には、相手方がその使用人に裁判外の裁判上の包括的代理権があると信じて取引をしたことが必要である。本規定は外観を信頼した第三者を保護する趣旨であり、相手方の善意が要件となる。
重要事実
控訴人(被上告人)は、被控訴人(上告人)の使用人である訴外Dとの間で売買取引を行った。被控訴人側は、Dに代理権がないことを控訴人が一部代金支払時に知っていた(悪意であった)と主張し、表見支配人の成立を争った。原審は、証人尋問等の結果に基づき、控訴人がDに代理権があると信じていた(善意であった)と認定した。
あてはめ
原審において提出された証拠(証人E、F、Dの各証言)のうち、控訴人が代理権の欠如を知っていたとする部分は信用できないと判断された。一方で、その他の証言や本人尋問の結果を総合すると、控訴人がDに代理権があると信じて取引をした事実が認められる。この認定プロセスに経験則違反の違法はないため、相手方の善意という主観的要件は充たされていると評価される。
結論
控訴人が訴外Dに代理権があると信じて取引をしたことは正当に認定されており、表見支配人の規定による責任追及は認められる(上告棄却)。
実務上の射程
本判決は、表見支配人の成立要件として相手方の「善意」を求めている。現行法下の実務および通説的見解では、表見代理全般の法理に鑑み「善意かつ無過失」が必要とされるが、本判決は事実認定のレベルで相手方が「信じた」ことをもって要件充足を肯定しており、無過失の要否については明示的な判断を避けている点に注意が必要である。
事件番号: 昭和39(オ)1426 / 裁判年月日: 昭和41年3月11日 / 結論: 棄却
訳文の添付がなくても、外国語で書かれた文書の意味内容・立証趣旨が口頭弁論および証拠調の結果を通じて明らかにされ、当事者においてもこれを了知していること明らかな場合においては、右文書を採証の用に供しても、判決を違法ならしめるものではない。