一、他人に自己の商号を使用して営業を営むことを許諾した場合においても、その許諾を受けた者が当該商号を使用して業種の異なる営業を営むときは、特段の事情がないかぎり、商号許諾者は、商法第二三条の責任を負わない。 二、甲が、乙に対し「D」という商号および自己の氏名の使用を許諾し、乙がこれを使用して営業した場合において、甲の営業の業種が電気器具販売業であり、乙の業種が食料品販売業であつても、乙が、甲の従前の使用人であり、甲の営業当時のまま「D」という看板を掲げて同一の店舗で「D」および甲名義を使用して営業をしているなど判示の事情があるときは、乙を甲と誤認して取引をした者に対し、甲において商法第二三条の責任を負うべき特段の事情があると解するのが相当である。
一、商号の使用を許諾した者の営業とその許諾を受けた者の営業との業種が異なる場合と商法第二三条の責任 二、右の場合において商法第二三条の責任があるとされた事例
商法23条
判旨
名義貸与者の責任(商法9条、旧23条)は、原則として同種の営業であることを要するが、異種営業であっても営業主と誤認させるに足りる特段の事情があれば認められる。また、相手方の重過失に関する主張立証責任は、責任を免れようとする名義貸与者側にある。
問題の所在(論点)
1. 商法9条(旧23条)の適用において、貸与者の従前の営業(電気器具商)と名義借受人の営業(食料品店)が異種である場合でも責任を負うか。 2. 取引相手の重過失の有無に関する立証責任はどちらが負うか。
規範
商法9条(旧23条)の責任が認められるためには、原則として許諾された営業が貸与者の営業と同種であることを要する。もっとも、貸与者の営業廃止後に名義を使用した者が別種の営業を開始した場合であっても、取引相手において当該名義人を営業主と誤認するおそれがあるなどの「特段の事情」がある場合には、同条の責任を負うものと解される。また、相手方の重過失は免責事由であり、名義貸与者がその主張立証責任を負う。
重要事実
電気器具商を営んでいた上告人Aは、廃業に際し、店舗看板、名義入りのゴム印、印鑑、小切手帳を放置したままにした。Aの元使用人Eは、その店舗で食料品店を開始し、Aの商号・氏名を暗黙の許諾のもと使用。EはA名義の印鑑で手形を振り出し、A名義の銀行口座も継続利用していた。被上告人(取引相手)は、Eとの食料品売買においてAを営業主と誤認して取引を行った。
あてはめ
本件では、EがAの元使用人であり、Aの店舗・商号・氏名をそのまま利用していただけでなく、A名義の印鑑や銀行口座までもがEに使用されていた。このような事実関係下では、営業の種類が異なっていたとしても、取引相手がAを営業主と誤認するおそれは十分に認められる。したがって、異種営業であることを理由に責任を否定することはできず、責任を認めるべき「特段の事情」があるといえる。また、重過失の立証については、A側に十分な反証がなされていない。
結論
上告人は、営業種目が異なる場合であっても商法9条(旧23条)の責任を負う。また、相手方の重過失の不存在を相手方が証明する必要はなく、上告人の責任は免れない。
実務上の射程
異種営業であっても外観への信頼が強い場合には名義貸与者責任を拡張する重要判例。答案では「同種営業」の原則を立てた上で、外観の類似性や属人的関係から「特段の事情」の有無を検討する。立証責任の所在についても、抗弁事由として貸与者側が負う点に注意する。
事件番号: 昭和32(オ)330 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自己の商号を使用して営業を行うことを他人に許諾した者は、当該営業が自己の営業であると誤信して取引をした相手方に対し、当該取引によって生じた債務について弁済の責任を負う。 第1 事案の概要:上告人は、京都府知事から「E」という商号による医薬品販売の許可登録を受けていた。上告人は、訴外Dに対し、自己の…